熊本県人、台湾中毒者。台湾が好きすぎて、2014年に台湾移住。8年の台北生活後、2匹の犬と共に最も好きな都市、高雄に引っ越す。生活の中で出会う様々な不思議なものを日々探索している。
何年台湾に住んでいても、高雄にいると、台湾の可愛さに驚かされることが多い。もしかしたら、台湾現地の方々が見落としがちな視点、習慣となってしまっている文化が私に驚きを与えているのかもしれない。ここでは、日本からの移住者の視点から、様々なヘンテコで可愛い高雄を掘り起こしていこうと思う。
文.撮影:吉本梨惠 企画編集:張容甄(HereNow編集部)
台湾に住み始めてから、市場巡りが大好きになった
仕事柄、犬の散歩以外は一日中家に籠って過ごすことが多く、特に最近では異常なまでに気温の上がり昼間の外出は灼熱地獄(体感40度を超えるのが当たり前になってきた)なこともあり、日頃はもっぱら自炊をして過ごしている。そのため、週に一、二回ほど伝統的な市場に行き、冷蔵庫が悲鳴をあげるほど、野菜や惣菜が詰まったタッパーでいっぱいにすることが毎週の楽しみであり、義務になっている。
日本にも野菜や肉、魚などを販売する「卸売市場」と呼ぶものがありはするが、ほとんどが専門業者が利用するものか、築地市場のような観光地化されたものだったりする。私も正月などの行事の際、熊本の魚市場の田崎市場に行ったりはしていたが、日常的に通うイメージはない。もっぱら商店街やスーパーでの買い物が一般的な日本人の食材の入手場所だろう。その為、台湾の市場は日本人旅行者の格好な観光地になっており、ガイド雑誌では必ず台北雙連駅の朝市が紹介されており、芸能人が台湾ロケに来ると朝は市場散策をして、鹹豆漿を食べるのが通例となっている。
もちろん私も例に漏れず、台北に住んでいた頃から市場が大好きで、毎週早起きをして(といっても台北の朝市は比較的遅めスタートなのところが多いのだが)出掛けては、威勢のいい声をBGMにアレやコレやと面白いものがないかと視覚と聴覚と嗅覚を最大限に働かせて楽しんでいた。
高雄でもその楽しみは相変わらず。むしろ、台北よりも更にディープで、敷地面積も広く、かつ、ひと地区に一つという高頻度で出現する市場に、今日はどこに行こうかと興奮しまくっている。台湾経済部の全国伝統市場統計表によると、2023年1月10日時点で、高雄には公設市場、民間市場あわせて91ヶ所もあるらしい。台北52ヶ所、新北41ヶ所というのだからその多さが伝わるだろう。台湾には、業者が集まる卸売市場もあれば、住民が利用する普段使いの市場、夕方になると現れる黄昏市場の3種類が存在しているが、今回は特に特徴のある高雄の市場をいくつかご紹介していこうと思う。
漁師の朝は早い!早朝3時がピークの魚市場──前鎮漁港
高雄は、海の玄関口として栄えた街。さまざまな人や物が行き交い、近年では、世界を回遊するクルーズ船を迎える国際的な高雄港クルーズターミナルも完成してさらなる盛り上がりを見せている。
人の往来だけでなく、高雄を代表する漁港「前鎮漁港」から水揚げされた新鮮な魚たちが、台湾各地へ運ばれていく。1964年に建設され、1967年から運用が始まったこの漁港は、遠洋漁業基地として知られており、その巨大な漁船を停泊させる必要があることから、「第一類漁港」にも指定されている。(第一類漁港:土地面積10万平方メートル以上あり、100トン級の漁船を100艘以上受け入れられる漁港に指定される《漁港法施行細則》)
前鎮漁港の朝はどこよりも早い。深夜3時ごろから始まり、4時ごろピークを迎え、日が昇るころにはもう落ち着く深夜限定の市場だ。続々とさまざまな魚介類たちがどんどん並べられ、各地から集まってきた業者たちのセリが始まる。

生簀に入ってまだ泳いでいる台湾人が好きな形が特徴のヒイラギ(台湾人は、三角魚と呼ぶ)、ひときわ巨大なカジキの解体作業、ぴょんぴょんと跳ねる中手際よく選別されていく台湾鯛、足が速く、新鮮なものは南部でしか食べられないサバヒー(虱目魚)、真っ直ぐに優等生のように並べられた烏仔魚(台湾語では、おーあーひーと呼ぶ)。天然魚から養殖魚、高級魚から一般魚までさまざまだ。
特に個人的にこの漁港で高雄を感じるのが、出荷前の処理をされているサバヒーの鱗取り作業だ。電動やすりを使い、ジジジーっという音を立てながら、鱗が空中に舞っていく。ものの数秒で、ボコボコ丸い鱗模様から、つるつる湯上がり美人のようなサバヒーとなって、どんどんカゴに積まれていく。その手際の良い作業についつい見入ってしまうほど面白い。
前鎮魚市場
高雄市前鎮區漁港中一路2號
各地から集まった新鮮な野菜の専門店──果菜市場
漁港のあとは、野菜を買いに行こう。高雄で最も大きな野菜卸売市場といえば、「高雄果菜市場」。ここでは毎日季節の新鮮な野菜たちが、料理人のお眼鏡にかなうのを待っている。本来は、漁港と同じくレストランや業者が大量に購入していく卸売市場なのだが、個人客でも少量から購入できるから、私も週に1度ペースで通っている。
さすが卸売市場、鮮度は申し分ないどころか、一般家庭でもレストラン並みに美味しい料理が作れるレベルで良い。ここで買い物を始めてから、スーパーで野菜を買えなくなってしまったほど。特にもやしの鮮度がかなり良い。パリッとパキッとしたハリのあるもやしは、2週間冷蔵庫に入れておいても大丈夫なほど。
高雄に引っ越してきてから、居住者にいつもどこに買い物に行くか聞いていたのだが、皆一様にして市場と答える。「肉はCOSTCO、野菜は市場で買うから、スーパーには滅多にいかない」という人まで現れるほど、みんな市場での買い物が日常のようだ。

この市場での私的見どころポイントといえば、各地から集められてきた野菜を入れられていた輸送用の段ボール箱。野菜をイラストや文字で書かれていて、可愛いものから、実写的なものまで多種多様でついついどんなイラストが描かれているのかと、商品より店裏に積んである段ボールに目がいってしまう。
中でも毎回行くたびにチェックを欠かせないのが、台湾のおへそ南投県の仁愛郷農会のシュールな熊が描かれたダンボール箱。トマト、ほうれん草、青唐辛子はすでに発見済み。全部で何種類あるのだろうか。季節によって野菜の種類が変わるので、1年を通してコンプリートしたい。
高雄果菜市場
高雄市三民區民族一路100號
美食家たちも足繁く通う、グルメが詰まった朝市──三民市場
お昼ついでに買い物をしたいときに活用しているのが、インスタ映えパワースポットで有名な三鳳宮の近くにある「三民市場」。この市場は、屋根のある室内市場と路地に屋台が並ぶ野外市場の2つのエリアに分かれている。特徴的なのが、市場が開催されている朝から昼過ぎまでの時間帯は、車2台がギリギリ通る広さの中央1列はバイク駐車場と化すこと。歩行者天国になってはいるが、駐車スペースを探すバイクも通路に入ってくるため、歩行者とバイクが交互に進む行列になり、ノロノロと進みながら、両者ともに何が売られているのか物色しながら歩いている様子は自由すぎて面白い。

タイトルにある「美食家たちが集う」というのは、何も食材探しだけじゃない。売られている手の込んだ惣菜や手包餃子なども、もちろん絶品の食卓の主役になるのだが、この市場には数軒の昔から続く古早味(昔ながらの味)の庶民派レストランも入っていて、昼時になるとそのお店の周りもテイクアウトとイートインのお客さんで行列になる。
個人的なおすすめは、鴨肉の油が浮いたスープに、ニラを入れてあるシンプルな鴨肉麺と昔ながらの金型を使用しておじいさんが焼きたてホカホカを出してくれるスポンジケーキ。現地人からしたら何気ない普通の食事なのかもしれないが、台湾Loverな日本人にとっては、このためだけに高雄に遊びにきたいと思えるほど魅力的なのだ。
三民市場
高雄市三民區中華三路285號
市場は古い? No!! 若者がどんどん集まる市場へ進化中──龍華市場
近年では、若者の定着率向上や地元の復興を目的とした政府主体の政策もよく見られる。地方創生団体も多くあり、海外や台北などの都会で腕を磨いた若者たちがUターン出戻ってきて、地元を盛り上げている。実際、鹽埕エリアにある鹽埕共用市場は高雄の代表的な地方創生成功事例の一つだ。
今回は、その中でも最新スポットとして注目を集めている「龍華市場」を紹介したい。ここは、昔ながらの野菜やお惣菜、麺などを売る伝統的な店と若者が開いたおしゃれなレストランが混在しているちょっと変わった市場だ。朝は、通常の市場の雰囲気漂うが、昼過ぎになるとレストランがオープンし、近くで働く方々のランチスポットとなり、夜になると居酒屋や寿司屋などがオープンしまた違った顔になる。

個人的なランチのおすすめは、若い女性が切り盛りされているタイ料理屋の激辛だが後を引く美味しさのガパオライス。いくつか料理があり、別のものを頼もうと思っているのだが、なぜか毎回これを頼んでしまうほど、中毒になってしまっている。また、ここのドリンクはプラカップでの提供はされていない。持ち帰る場合は、マイボトルかビニール袋に入れられるルールになっている。美味しいだけでなく、環境保護の観点からも全力でおすすめしたい店の一つだ。
龍華市場
高雄市左營區富國路60號
朝だけじゃない!夕方にオープンするなんでも揃う巨大市場──自由黄昏市場
働く方々の強い味方といえば、夕方から出現する黄昏市場。特に「自由黄昏市場」は、交通の弁はあまり良くないものの、その巨大な敷地面積から、迷いつつも欲しい宝物はほぼ100%見つけることができる最高のダンジョンのような場所だ。

しかも、さすが市場、どれも安くてうまい。外食するよりも半分か3分の2の金額で、美味しい惣菜や食材を購入することができるのは生活者にとってかなり嬉しい。日本人にとって台湾グルメといえば魯肉飯や牛肉麺を連想する方も多いと思うが、こういう市場で販売されているお母さんたちの手作り惣菜もぜひ試してみてほしい。海外で暮らす外国人であっても暖かい家庭の味を感じることができる。
今日のおかずは何を買おうか? と迷いながら、バイクでサッとやってきて、あれやこれやと手にいっぱいの袋をぶら下げて、またバイクに乗って帰っていく。そんな日常が尊くて仕方がない。
自由黃昏市場
高雄市左營區自由三路261號