熊本県人、台湾中毒者。台湾が好きすぎて、2014年に台湾移住。8年の台北生活後、2匹の犬と共に最も好きな都市、高雄に引っ越す。生活の中で出会う様々な不思議なものを日々探索している。
何年台湾に住んでいても、高雄にいると、台湾の可愛さに驚かされることが多い。もしかしたら、台湾現地の方々が見落としがちな視点、習慣となってしまっている文化が私に驚きを与えているのかもしれない。ここでは、日本からの移住者の視点から、様々なヘンテコで可愛い高雄を掘り起こしていこうと思う。
文.撮影:吉本梨惠 企画編集:張容甄(HereNow編集部)
台湾は、多文化が混ざり合ったその歴史的背景により、日本と非常に似ているところもありつつ、やはり違う場所なのだなと実感することも多くある。特に伝統文化がより色濃く残る南部の街、高雄に移住して、違いを楽しむことがさらに増えた。
特に東洋医学「中醫」が医療だけでなく、生活の中にも根付いているのは非常に興味深い。
台湾人は、もちろん全ての人がそうするわけではないが、風邪気味だと思ったらカッサを行い、寒い日には山羊の火鍋を食べる。身体に影響する東洋医学の知識を日常的に知っているのだ。
私も徹夜仕事明けで疲労困憊の時、漢方スープ屋で高麗人参の苦くて甘いスープを飲んだら瞬く間に身体が軽く、眠気も和らいだ経験を持ち、漢方薬の凄さには信頼を置いている。今回紹介したいのは、そんな日常に取り入れられている東洋医学の考え方の一つ、漢方ドリンク。
熱帯地域に属する高雄は、一年を通して雨が少なく、気温も高い。暑くて晴れが続く様子から高雄の太陽は大きい(高雄的太陽很大)だと表現されるほどだ。よって、解熱作用のある薬草を使った漢方ドリンクが高雄の日常には欠かせない。
伝統的な漢方ストリート──源山藥行/郭氏青草舖
日本人にも人気なインスタ映えスポット三鳳宮の隣には、地元の方々の行きつけの漢方ストリートがあるのをご存知だろうか?私もこのお店を知ったのは、廟にお供物のお菓子を卸している老舗の中華菓子屋さんを取材した際、オーナー奥様から連れてきてもらったのが初めてだった。
「ここの青草茶が美味しいのよ!」
奥様にそう言われて、私も1本(そう、コップ1杯ではなく、ペットボトル1本)いただき飲んでみたところ、確かにうまい!お店の外観や雰囲気から漢方の苦さが強いのではと思っていたが、意外に意外、苦味少なく飲みやすい。
青草茶というのは、さまざまな薬草をブレンドさせたお茶で、解熱効果や利尿作用があるものとして台湾全土で一般的に飲まれている。コンビニやスーパーでも手軽にペットボトルで買えるほどポピュラーな漢方ドリンクだ。私は解熱目的で暑い日にお店を見つけたらよく飲むのだが、1杯飲み終わると本当に身体からスッキリと熱が引いているのを感じて、まるで魔法にかかったようだ。
このお店では、材料となる薬草を乾燥させて1年中美味しい青草茶をはじめ漢方ドリンクを提供されている。生の薬草を使わないのか?と聞いてみたところ、季節によって味の質が落ちてしまうので、乾燥したものを使用しているとのことだった。無糖だと少しクセが強いので飲みにくいが、微糖であれば、日本人も飲みやすいので、台湾で最初に飲む漢方ドリンクとしてぴったりだ。是非、まだの方は試してほしい。もちろん、青草茶だけでなく、身体の症状に応じた薬草も提案してくれる。

源山藥行/郭氏青草舖
高雄市三民区河北二路134号
北部ではあまりみない蓮根茶──藕家飲品
高雄に引っ越してきて初めて飲んだのがこの漢方ドリンク「蓮根(れんこん)茶」。
私の地元熊本にも辛子蓮根という名物があるが、日本人にとって、蓮根とは煮物やお弁当のおかずなど、どちらかというとお惣菜に使われるイメージだが、まさかあの蓮根がドリンクになっていたとは‧‧‧。これも地元の方に教えてもらい、勇気を出して飲んでみたところ、思っていたイメージを正反対に覆された。泥臭さはもちろん、野菜の青臭さすら全くなく、味はダージリンティーに似ている濃厚でオリエンタルな紅茶のような味。蓮根には、ビタミン、タンパク質、鉄分、カリウムなど豊富な栄養素を含んでいて、青草茶と同様に解熱作用や胃腸を活発にする作用も含まれる。
このお店は、M R T鹽埕埔の出口前にお店を構えているので、観光客も見つけやすい。元々は横の通り新樂街(高雄人にはミルクティーストリートと呼ばれている)の小さなお店だったが、人気も相まって今の大きな店舗に移転された。
「早く飲みなさいよ!」
注文するとオーナーのそんな大きな声で渡される。まるで隣のおばちゃんからご飯をお裾分けされたような感覚になるのが面白い。天然食材で無添加‧手作りで毎日作られており、一番美味しいタイミングでお客様に提供したいからだ。
さらに、このお店の何が特別かというと、蓮根で作った手作りのタピオカを提供されていること。蓮根タピオカの食感はもちもちはしているが、通常のタピオカよりも弾力がなく、比較的柔らかめで、かつ、甘さも控えめ。さらに、蓮根は食物繊維も豊富で、カロリーが低いので、ダイエット中でも気兼ねなくタピオカミルクティーを飲み干すことができる。
藕家
高雄市塩埕区大勇路87号
祖父の漢方診療所をカフェに──回春青草茶
植物が好きでよく土日に開催されている花市に運命の子を探しに行くのだが、そんな時に見つけたのがこのレトロなカフェ「回春」だ。古い看板やその外観からてっきり漢方薬を調合してくれる薬局かとも思ったが、Googleマップの写真を見てみるとどうやらカフェらしい。勇気を出してレトロなドアを開けたのがきっかけだった。

内装は小さいながらもセンス良い装飾などがされていて、どこか日本の古い喫茶店を思わせる雰囲気。壁にはたくさんの写真が飾られており、眺めていると半世紀以上に渡り、親子3代の様々な瞬間をずっと見守り続けてきたことがよくわかり、とても温かい気持ちになる。(特にお店の前で撮影された、お母さんのウエイディングドレス写真は必見だ)
元々は1967年に祖父が開院した東洋医診療所で、その祖父が残した秘伝のレシピを使った漢方ドリンクを3代目の孫娘が提供している。やはり一番飲みやすいのは青草茶だが、その他にも数種類用意されていて、メニューには各ドリンクの効果効能が書かれており、自分の症状に合わせて選ぶことができる。
また、公私混同で申し訳ないが、犬好きな私としては欠かせない情報がこの店の看板犬「メロン」。回春一家は動物好きで過去様々な動物を飼っていたらしく、この黒犬は、数代目メロンで、犬にはメロンという名前をつける決まりになっているらしい。余談だが、メロンは中国語で哈密瓜(ハーミーグァ)だが、台湾語ではme-lóng(メロン)と発音する。
回春青草茶
高雄市前鎮区滇池街13号
粗氷が最高な杏仁ゼリー──東美水果行
最後におすすめの漢方スイーツも紹介したい。
杏仁ゼリーが個人的に大好きなのだが、日本にいた頃、台湾では杏仁ゼリーがどこにでも売っていて、食べ放題の楽園だろうと思っていた。ところが、来てみてびっくり、かき氷のトッピング少量か高級料理店のデザートくらいしか見当たらない。明らかに豆花に負けている、毎日杏仁ゼリーを食べようと思っていたのに‧‧‧と、ショックを受けていたところ、幸運なことに高雄で杏仁ゼリーを気軽に食べられる店を見つけた。
70年以上営業されている超老舗店のフルーツ屋「東美」は、塩埕区と新興区に2店舗あり、観光ついでなら塩埕本店を利用するのが便利だろう。個人的には新興のお店も小さくて観光客が少ないので、普段使いするのに嫌いじゃない。
杏仁も、もちろん漢方薬の一つ。一般的に知られているのは便秘やアンチエイジング効果だが、喉にも良いため、鎮咳薬として喘息や呼吸器の不調に使われる。
東美には大量にメニューがあるのだが、いつも決まって杏仁ゼリーに手で削られる荒削りの氷とパイナップルの蜜漬けがトッピングされているものを注文し、毎回杏仁ゼリー愛を噛み締めている。
また、日本人には馴染みが全くないトマトの食べ方もここで体験できる。
台湾人にとってトマトはフルーツとして認識されていて、カットフルーツと同じようにトマトも販売されている。日本人は塩で食べるのが一般的だが、台湾人は桃太郎トマトのような大きなトマトは、生姜と砂糖と醤油を混ぜた特製のタレにつけて食べる。塩気と甘味とトマトの酸味が相まって口の中で中和され、独特の旨みが発生する。
特に解熱効果もあるトマトは、日差しが強い南部では欠かせない食材の一つ。高雄に遊びに来た際は、熱中症対策にトマトを摂取するのもおすすめだ。
東美 鹽埕總店
高雄市塩埕区七賢三路139号
東美 六合店
高雄市新興区六合路158号