毎年秋に開催するアジア最大規模のアートブックフェア『THE TOKYO ART BOOK FAIR(以下、TABF)』は、3日間の開催にも関わらず1万人以上が集まる、活気にあふれたイベントだ。カラフルなブースに数多くの書籍が並ぶのはもちろん、ライブイベントなどの催しや、飲食店のブースなど、TABFはアートや本が好きな若者を魅了するエネルギーに満ちている。
HereNow TOKYOのキュレーターでもあるベン・デイビスが、今回のTABFで出会ったお気に入り本を紹介します。
POSTED on 2020.05.24
UPDATED on 2020.05.27
数年前、お気に入りの古本屋「スノーショベリング」で、偶然この作品の作家である成重さんの奥さまであるきくちさんに出会い、彼の作品を知るようになりました。
成重さんは普段、ヘアサロンを経営していますが、実に素晴らしい直感的な写真家だと思います。今回TABFに向けてつくられた作品『上下巻』は、約100ページの壮大で、親密なポートレートとスナップが集まっています。この作品は、妻のきくちさんから大きな影響を受けていると思うし、二人の伝記的な写真集だとも感じます。日常的な風景から、遊びやプライベートの写真まで、日々の瞬間を通して、二人だけの人生の旅を共有してくれているように思える素晴らしい写真集です。
「Zine’s Mate Shop」は、遠方の人や、当日来られない出店者のための、作品発表・販売ブースです。何十冊もの本がディスプレイされていましたが、なかでもこの『Crossing Strangers』のシンプルな装丁に目を奪われました。厚みがあり、鋭く切られた表紙の上に、エンボス加工されたタイトル、そして中身は南アフリカのヨハネスブルクで撮った、穏やかだけど力がある白黒のポートレート。タイトルの“Crossing Strangers”(見知らぬ人と出会い、会話をする)というのは、とてもロマンチックなアイデアだと思います。私の旅行熱もすっかりかき立てられてしまいました。
原宿にあるカルチャースペース「VACANT」のメンバー、大神崇さんらが発行する『SHUKYU Magazine』。この作品は、フットボールに対するカルチャーや歴史を紐解くだけではなく、ここ数年、世界的に増えてきたリトルプレスと同じく、特定の分野に対して、深く広く、精通されているメディアで、ただのフットボール雑誌とは異なります。うどんを作っている元サッカー選手から、作家さんによるユニフォーム作りの話し、また写真家・濱田祐史さんが撮った壊されていく国立陸上競技場の風景など、独自の視点で切り取られており、普段あまりフットボールに触れることのない自分にとっても興味が湧く内容でした。この雑誌から感じられる、雑誌づくりにおけるアイデアと情熱に、大きくインスパイアされました。
2階にある小部屋のブースで出店していた西舘朋央さんの作品『Tomoo Nishidate』が、目にとまりました。東京在住のアーティスト・西舘さんが自ら作ったこのZINEには、彼のコラージュ作品やインスタレーションなどが紹介されています。最近の作品は、文字やグラフィックをベースとして、それを木材に落とし込み、レーザーカッターでくりぬいた立体的な作品です。作品を見るだけで、その緻密さと、西舘さんらしさを感じます。その場にいらした西舘さんの話を聞くことによって、私はますます、彼のこれからの活動を追っていきたいと思いました。
http://www.christianschwager.ch/home.html
今年からTABFで始まったプログラムとして、ひとつの国に焦点をあてた「ゲストカントリー」セクションがあります。その第一回目に選ばれたのは、スイス。場内には、スイスのアートブックが数多く並んでいました。その中で私が見つけた本は、『Falsche Chalets』。ソファでじっくり見ながら、長い時間を過ごしました。この写真集はスイス軍によって建てられたシャレー(スイス山地の田舎の家)を集めた作品で、実際に軍が利用するシャレーが撮影されています。スイスの美しい自然と、軍の建築物という皮肉な組み合わせを捉えたシャワーガーの作品に偶然に出会えてよかったです。
ベン・デイビス
オーストラリア出身の編集者。2010年より東京を拠点に活動。ローカルな視点から都市を紹介するオンラインマガジン「The Thousands」東京版の編集者としての経験をした後、2015年にCINRAに入社。ANAの訪日外国人向けサイト「Is Japan Cool?」にコラムを寄せるなど、地域の魅力を伝えている。
こんにちは! 私、ベン・デイビスは、2011年からTABFにずっと足を運んでいます。私にとってTABFは、本好きの仲間や出版社の方々との出会いだけでなく、作家やファションデザイナー、音楽家など、様々な人々が集まるコミュニティー的なイベントとして、ここ東京でとても珍しくて面白いイベントだと思っています。
今年もブースを周りながら一つひとつの本に没頭し、かなりの時間を費やしました。ちょっと疲れましたが、とてもエネルギッシュな時間でした。至る所に溢れる魅力的な書籍はもちろん、各ブースでの出店者との陽気な会話も楽しく、自分が求めている本に出会えるきっかけにもなりました。
その中で気に入った本のいくつかを紹介します。