Kontrapunkt(コントラプンクト)の社名は、日本人にはあまり聞き馴染みがないかもしれません。デンマークを代表するデザイン会社の一つで、資生堂や三菱自動車、カリモク家具などの日本の大企業ともたくさん仕事をされています。
日本支社の代表をされている濱口屋氏とデザイナーのMarcus(マーカス)氏にお話し頂きました。ご紹介下さった一つ目の事例は、デンマークのエネルギー会社Ørsted(アーステッド)社との取り組み。デンマークではクリーンエネルギーにシフトするのに伴い、国営電力会社の「DONG Energy」の社名をØrsted(アーステッド)に変更したそうです。背景には、「DONG Energy」という名前が、デンマーク石油・天然ガスの頭文字を取り命名されたものであったため、変更する必要があったとのこと。Kontrapunkt社はこの社名を考えることから始め、ロゴのデザイン、スマフォのインターフェースに至るまで、2年間を通じてこのプロジェクトに関わったそうです。
もう一つお伝えしたいのが、資生堂の事例。横浜・みなとみらいに2019年4月にオープンした「S/PARK(エスパーク)」は、誰でも自由に訪れることができる美の複合体験施設です。こちらのロゴデザインとタイポグラフィーもKontrapunktさんが手がけられました。この特徴的は「S」の曲線は、資生堂が昔使用していた資生堂の「S」の”影”を投影した形をイメージして作成されたそうです。このデザインを元に、他のタイポグラフェーも制作されていったそうです。
このように洗練されたデザインを得意とするKontrapunkt社。プレゼンの資料も鮮やかで、見ていてとても心地の良いものでした。デンマークの特徴についてデザイナーのMarcusさんは、無駄を削ぎ落とし極めることで、逆に存在感を生み出すところにある、とおっしゃっていました。日本の美意識とも通じるところがあり、日本の企業からも厚い信頼を寄せられている理由をうかがい知ることができました。本プログラム「Design Camp in Denmark」では、Kontrapunkt社の本社に訪れ、デザイナーの方と直接会話しながら進めるワークショップも予定しております。
能代氏は普段、日産で車の内装のデザインをされているデザイナーさんです。車のデザイナーが集まるカンファレンスには参加したことがあったものの、他分野のデザインについても触れてみたいと思ったのがきっかけで、昨年Design Mattersへ参加されたそうです。車の業界にいらっしゃるだけあり、デンマークの街の電気自動車の多さや自転車通勤の様子など、独自の視点からコペンハーゲン市内の様子もご紹介下さいました。
Design Mattersは大きな会場で行われ、会議というよりフェスのような楽しい雰囲気であったこと、登壇者のプレゼンも上手で聞き飽きなかったことなど、会場の様子を臨場感たっぷりでお話し下さいました。昨年、日本からの来場者は能代氏と河野氏のお二人だけ。昨年の来場者900人のうち、1/3は北欧、1/3はヨーロッパ、1/3はアメリカだったそうです。名だたるテック系の会社からも多数来場していたようで、日本からの参加も是非オススメしたいとのことでした。
Design Mattersはデジタル系のデザイナーが多数登壇するため、能代氏が働く車業界とはマーケットが違います。とはいえ、同じデザインの世界。業界の違う事例を聞くことで、デザイナーとしての悩みのポイントは皆似ていることを実感したそうです。デジタルの業界ではオープンに事例を共有することが慣習であったり、顧客をいかに自分のサービスに留めておけるかに心血を注いでいることに驚いたそうです。それらは車業界ではあまり意識したことがなかった観点であった、とのこと。とても刺激の多い時間であったとおっしゃっていました。
河野氏はリクルートテクノロジーズでUXデザイナーとしてご活躍されている方です。より直接的に業務に役立つカンファレンスを探していてDesign Mattersに申し込まれたそうです。Design Mattersでのトークの中から1つの事例として、ブログサービスの「Medium」のプレゼンを共有して下さいました。ウェブなどのサービスで、ユーザーへ伝えたいメッセージをより伝わりやすくするコツとして、そのメッセージを「声に出して読んでみること」を挙げていました。人は文章を脳の中で音読して読んでいるので、詰まることなく読めなければ、理解しやすい文章とは言えないとのこと。また、シンプルで平易な表現の方が早くユーザに伝わることや、いくらビジュアルが分かりやすくても、付随する文章が読みにくければ、結局相手には伝わらないこと。などなど、今すぐ自分の業務に活かせる内容が紹介されることを伝えて下さいました。
河野氏は、過去に他の海外のデザインカンファレンスに参加されたことがあります。Design Mattersが何より魅力的だったのは、「デザイナーによる、デザイナーのため」のカンファレンスであったこと。トークのすべてがデザインオタクによるものだったので、共感できることが多かったこと。こういったカンファレンスでよく話題となるプロダクトマネジメントやチームビルディングの話などよりも、デザイナーに特化した専門的な内容が学べたこと、などを挙げていました。カンファレンスの雰囲気はとてもワクワクするもので、全体の装飾などは「さすがデザイナーが作ったカンファレンスだな」と思わされるものだった、と。カンファレンスの横ではバッグ作りや陶芸のワークショップまであり、飽きない空間であったと写真を交えて話して下さいました。
ーDesign Camp in Denmarkはどの分野のデザインを学ぶことができるのか?
CINRA: 前半2日間は、デザインオフィスを訪問するので、タイポグラフィーからグラフィックデザインまで、触れることができます。ワークショップも多く予定しているので、参加者からどんどん要望を頂けたら、それに応えられるような内容にしたい。後半2日間のDesign Mattersは、デジタル系のサービスに関わるデザイナーが多く登壇するので、UX、UIなどよりデジタル寄りの内容になると思う。
ー日本だと、デザイン会社とクライアントとの間に大手広告代理店が入ることが一般的だが、デンマークではどうなのか?
Kontrapunkt: デンマークでも広告代理店はあるが、日本ほど大きな存在感はない。Kontrapunktでは代理店を通さず、クライアントと直接仕事をすることが多い。しかもクライアントのトップと直接交渉して進めていくことが多い。
ー欧米と比べて、日本はデザインに対する予算の掛け方が違ったり、デザインに対する意識が低くてがっかりしたことはあるか?
能代:Nissanの場合は、世界規模でビジネスをしているので、あまり日本と欧米との対比を意識したことはない。逆に、みんながかっこいいとするものが共有されやすい状況にあるようにも感じている。
河野:海外の登壇者の話を聞いて、がっかりするということはあまりない。自分もそのナレッジを取り入れたいと感じ、むしろ前向きな気持ちになる。海外と日本でデザインの意識という違いはよく言われるが、日本でもデザインの専門家を要職に就けたりする動きもあり、意識は変わってきているのではないか。
Kontrapunkt:デンマークであってもすべてのデザインが素晴らしい訳ではない。日本のデザインを見ても素晴らしいものもあるので、大丈夫だと思う。
ー育休でデザインの現場を離れることになり不安だ。デザインのトレンドに取り残されないように、何かするべきことはあるか?どんなことをして過ごすのが良いか?
能代:今の仕事を離れて俯瞰することで見えてくるものがあったりする。Design Mattersに参加してそれを感じた。全然違うことをやってみたり、違う分野のデザインに取り組んでみたりすると良いと思う。トレンドが気になる気持ちも分からなくはないが、溺れないように、自分を俯瞰できる時間を持つことも大切だと思う。
河野:お休みの間にも努力されていて、それだけでもとても素晴らしいことだと思う。でも、そんなに焦らなくても良いと思う。現場から離れているからこそ、これまでできなかった新しい経験やこれまで見えなかった視点で物事を捉えることができる。現場で直接的に活きそうなこと以外にも、色々なことに興味を持って存分に時間を使ったら良いと思う。そのすべてが自分のデザインに返ってくると思う。
Kontrapunkt:デンマーク人はお休みをしっかり取ります!Kontrapunktのデンマークオフィスはこれから3週間夏休みです。たくさん休むのですが、それが結果的にいいデザインをする状態を作っているとも言えると思います。ですので、しっかり休んで良いと思いますよ。
リクルートテクノロジーズ河野さんのプレゼン資料はこちらでも公開されています。是非ご覧ください。
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