デンマークのデザイン・カンファレンスDesign Mattersの共同設立者Michael氏は昨年来日し、その経験をブログに掲載しています。本記事はその記事を和訳編集したものです。デンマーク人である彼の視点を借りて、日本のデザインと文化の特徴を覗いてみましょう。
POSTED on 2019.06.05
はじめに

デジタルな複雑さを整理して、伝統からインスピレーションを受けようとするとき、日本人はその方法を知っているようだ。北欧のデザイナーとして、日本のデザインとカルチャーからどんなことが学べるだろうか。それが知りたくて、私たちDesign Mattersのジュリーとミカエルは東京に5日間行くことにした。

日本はハイクオリティーなデザイン、特にテクノロジーの分野でも有名だ。でも、デジタル製品とそうでないもののデザインでは全く別のアプローチが取られていた。例えば、インテリア・デザインと言ったとき、私たちはすぐにシンプルで洗練されたミニマルなものを思い浮かべるだろう。でもデジタルデザインになると日本では違うようだ。日本のよく利用されているサイトを見せてもらったところ、その複雑さと情報量の多さに圧倒されてしまった。

日本は地理的にもデンマークや西洋から遠い位置にある。長い歴史を持つ島国だ。豊かな伝統と格式がある。過去には侵略の歴史もあり、常に地震の脅威に晒されている。長い鎖国の時代もあり、外国人がたった7%しかいない単一民族国家であると言える。

日本の寺院や神社、温泉にも魅了された。日本は今後、私たちに新しい価値観を提示し、驚かせてくれるだろう。そんな違ったカルチャーの潮流にも触れたかった。

日本での滞在

欲張りな私たちは、日本でのデジタルデザイン触れ、Design Mattersに登壇してくれる人を探して回ることにした。その中で、インディペンデント・デザイナーの石川俊祐氏のほか、電通、Think & Do、Tank、Re:public、Hatte、Concent、Spread、CINRAを訪ねた。

驚くべきことに、ほとんど全てのデザイナーたちが、「私たちのデザインの強みはデジタルにはないーー今はまだ。」と答えた。それゆえに、伝統文化の中にあるデザイン性を見て行くことをお勧めされた。だから、そうすることにした。複雑なカルチャーに飛び込むと、驚きに満ちた豊かな経験が待っていた。

驚いたのは複雑さ

日本人は複雑で絡み合ったシステムの中で生きることに慣れている。東京は世界でも人口密度の高い都市の一つであり、社会の階層は言語にも敬語として反映されている。地下鉄はとても入り組んでいて複雑で、ひらがな、カタカナ、漢字の3つのタイプの文字を使い分け、数千種類の漢字と50以上の支払い方法が混在する。

この複雑さはあちこちで見て取れた。道路の標識からも、彼らが日常的に触れている複雑さに感嘆した。ミニマルなデンマーク文化から来て、日々GoogleやAirBnBのようなシンプルなデザインに触れている私たちにとって、それは衝撃だった。複雑さは日本人の精神にも溶け込んでいて、デジタルのデザインにもその複雑さが表れていた。

正反対の要素が入り混じる

日本には二つの違った世界が一緒に共存しているように見えた。非常にカオスの状態と平和な状況の対照性。例えば、温泉の静かな環境や穏やかな禅のお庭がある一方で、混み合ったオフィスのスペースや都市のネオンの入り組んだ様子、騒音が響き渡り絡み合った電線が頭上で交差する状況も存在する。

シンプルすぎると信用されない

日本にいるデザイナー達とはユーザーがどのようにしてこの複雑さに対応しているのか議論した。日本人は元々シンプルなUIに親しみがないためか、ウェブサイトはごちゃごちゃしていて、西洋人には複雑に見える。我々には「情報過多」に見えることも日本人には問題ないようである。問題は、どんなユーザーも同じインターフェースと使わざるをえない状況になってしまっていることだ。

もう一つ興味深いのは、日本人は私たち西洋人ほど、デジタル製品がシンプルであることについてあまり価値を置いていないことだ。シンプルでミニマルなUIを信用がないように感じ取り、空白を情報が足りないような印象として受け取るようだ。彼らが日常で使う漢字が、彼らのものの考え方に影響を与えているのかもしれない。複雑な情報や概念を漢字の文字に入れ込み、それらを組み合わせ、並べることで使っている。

漢字はとても複雑で、一つの画が変わるだけで違う意味の漢字になってしまう。その結果、日本人は細かい所に気づくように日頃からトレーニングされていることに繋がる。結果、ごちゃごちゃしたウェブサイトに慣れていくことも自然なことなのかもしれない。このようなことを考えていたら、ただシンプルにすることだけがデジタルデザインの行く先なのか、疑問を持つようになった。日本の情報の詰まったウェブサイトからも何か学べることがあるのじゃないかと考えた。

日本は西洋の真似をするべきじゃない

デンマークのような小さな国で育成されたデザイナーである我々は、常に国外の情勢に目を向けてきた。でも問題なのは、その世界の視点というのがほとんどカリフォルニアからのものだった。

石川俊祐氏は最近「HELLO, DESIGN 日本人とデザイン」(2019年・幻冬舎)という本を出版し、日本のデザイン文化を振り返りながら、日本のデザイナーに自信を持ってもらおうと試みている。世界の有名な製品にあわせシンプルなデザインを目指すのではなく、日本のデザイナーのみならず、世界のどのデザイナーも、自分の独自の文化、宗教、歴史を振り返り、それを反映したデザインをするべきであると述べている。

製品との感情的な繋がり

日本の片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんのことを耳にしたことがあるかもしれない。彼女の提唱する「こんまりメソッド」は、全ての自分のアイテムを一箇所に集め、一度にカテゴリー別に分け、「ときめき」を感じたものだけを残す、というものだ。彼女は、ものを捨てる前には感謝の意をもつようにも伝えていて、これには整理整頓をすることで精神の安定をはかる神道の影響も見てとれる。

She is
自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティサイト「She is」

西洋人の視点からは奇妙に見えるが、漫画やアニメ、ハローキティーのような可愛いキャラクター、宮崎駿の映画に登場するキャラクターなどは、街のあちこちで目にする。ウェブサイトや本、銀行から公共交通の案内だけでなく、現代のフェミニスト系のウェブサイト「She is」でも使われている。

最後に

長い間、西洋人は西洋人のためにデザインをしてきた。シンプルで効果的なデザインを作成することにも誇りを持ってきた。

対照的に、根強い複雑さを内包し、複雑であることに価値を置く日本人にとって、シンプルであることをデジタルデザインに望んでいない。彼らは、グローバルスタンダードを目指すよりも、伝統や地域に密着した価値観に基づいてデザインをしている。

日本と西洋のデジタルデザインには大きな隔たりがあるため、両者が同じヴィジュアルデザインを目指すのには無理がある。私たちが日本から学べることは、自国の文化や伝統を振り返り、隠れたパターンや要素を探し出し、自らデザインを進化させていくことにあると思う。


原文What Digital Product Designers can learn from the Japanese Culture

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