2019年9月16日から19日にかけて「Design Camp in Denmark」に参加してきました、デザイナーの山下あか理です。HereNowさんの依頼を受け、今回その様子をレポートとして執筆いたしました。訪れた場所や現地で見聞きした内容など、印象的だった事柄を中心に4日の体験をレポートしています。
POSTED on 2019.10.28
ツアー参加のきっかけ

多くの人が「Danish Designは素晴らしい」と語るのを耳にすれども、それが一体どのようなものであるのか?について何の知識も無い私。「北欧文化…家具やインテリアが素敵で、福祉国家で幸福度が高くて…」というような、ぼんやりとしたイメージしかありませんでした。

コペンハーゲンの街並み。建物はレンガ造りのシックなものがほとんど。

今回参加したDesign Camp in Denmarkツアーは、日本人ご両親の元、デンマークで育ったayanomimiのAyaさんがコーディネーターとして現地を案内してくれるという内容。デンマークと日本双方の文化に触れた経験のあるAyaさんの案内があれば、文化理解の解像度が深まるのではないか、そう思い立ちこの旅への参加を決めました。

1日目 – デンマーク文化の根底にある考え方を学ぶ

初日はまず、「デンマークと日本の文化の相違点・共通点」に関するワークショップを、Borsenという旧商工会議所をリノベーションした歴史的な建物で行いました。この場所に限らずコペンハーゲンでは、Absalon等のように古い建物をリノベーションし「用途も含め時代の価値に合わせてアップデートする文化」を大切にしていると感じます。

当日のワークショップの様子。現地のデザイナーさんも沢山同席され交流しました。

AyaさんとDesign Denmarkの方々のプレゼンにより、ツアーにおいても基本となる「デンマークと日本の文化」について学びます。ミクロな視点では現実とは異なる部分もあるかもしれませんが、精神的な文化構造のアウトラインを、現地の方の意見からも汲み取る事ができる貴重な体験でした。

私と同じグループには、テキスタイルアートや腕時計のデザイナーさんも参加しており、現地の方々と交流することで各々の考え方を学び、意見を交換する良い機会となりました。

日本にも拠点をおくデザイン会社「Kontrapunkt」へ

午後は日本にも拠点のあるデザインエージェンシー、 Kontrapunktへ訪問。日本企業がデンマークのデザイン会社と沢山の仕事をしていること、また、彼らの精神性と日本の文化が融合しクオリティ高い独自のアウトプットに結びついていることが印象的でした。デンマーク人の、相手に寄り添い競争よりも心地よさを求めるHumbleな精神性が、日本人の仕事への姿勢と融合し良い相乗効果をもたらしているのかもしれません。

下記は王冠をモチーフにしたデンマーク政府の公式ロゴのプロジェクト。政府のロゴであっても、いかにして地域社会に根ざし普及し愛されるかに焦点があり、彼らはどこまでも社会におけるフラットな関係性を「自然に」目指すことができるのだなと、羨ましさも感じます。

2日目 – デンマークのデザインエージェンシーを見学

2日目はデンマークのデザイン会社を見学。1社目は、今回個人的に一番楽しみにしていたSpace10です。

食品の安全性、Co-Living、ヘルスケア・ウェルネス等の観点から、様々なプロジェクトを立案・調査し、社会実験的にアウトプットしているSpace10。スペキュラティブデザインをWell-Beingの観点から実践する取り組みは、私たちの「人間としての生き方」を再定義するものでもあります。
個人的には、Blockchainを用いて個人がソーラーパネルから電気を作り、C-to-Cで売り買いするプロトタイプを面白く見ていました。Blockchainが提起できる分散型社会が本当に現実になるのかはわかりません。しかし、少なくとも1つの未来としてのアウトプットを目にすることで、私たちの未来への想像力とその輪郭が広がるのではないでしょうか。

Designit、Designmuseum Danmarkへ

午後からは2つ目のデザイン会社、Designitへ。彼らからは実際のプロジェクトの進め方や調査の方法、実際にデザインに落とし込むまでのワークフローなど、かなり実践的な内容をヒアリングすることができました。事例資料から彼らの具体的な仕事方法をイメージすることができ、現場で手を動かすUX・UIデザイナーにはとても良い学びの場となったように思います。

その後はDesign Museum Danmarkへ。この美術館では、歴史的な流れの中で、日本文化を始め他国文化とデンマーク文化がどのように融合してきたのかを案内していただきました。

陶器や椅子など北欧デザインの代表として例に上がるプロダクトも、現代に受け継がれてきた様々な歴史と他国文化の影響によるところが大きくあります。
デンマークでは、家族や友達と楽しく過ごし心地よい生活を送ることを「Hygge(ヒュッゲ)」と呼び大切にしているそうです。このような生活スタイルの本質的な考え方と、冬の日照時間が短い北欧の気候、さらには大戦後の物不足の時代における材料利用の工夫など様々な要因が、独自の機能美とデザイン性が共存するプロダクトを生み出したといいます。そこには日本の陶器や家具の技術も少なからず影響しており、それらはLearning From Japanの展示からも窺い知ることができます。

3-4日目 – DesignMattersへの参加

ツアー後半はデザインカンファレンスへの参加です。
Design Mattersは毎年コペンハーゲンで開催されている世界的なデジタルデザインのカンファレンスで、世界中のデジタルデザインを学び実践する仲間が一同に会します。第5回となる2019年の今年は、約1000名のデザイナーがここに集まりました。

全体として「Less Tech」と「Social Centerd Design」は、今回のカンファレンスの共通のテーマであったように思います。Techにより利便性とエンタメに溢れ、人間の可処分時間がスマートフォンアプリとSNSに費やされていく時代において、「良く生きる」「社会を良くする」ために今デザインができることは何だろうか?というテーマに基づいたプレゼンが多くありました。

例えば、日本のSFCゲーム「スーパードンキーコング」にも着想を得たというFox & Sheep社のデジタルゲーム「SHINE」は、ただ楽しいだけのゲームではありません。忙しくストレスの多い生活から離脱し、美しい映像と音楽により日常から逃避・休憩できるメディテーションの役割をゲームで実現しています。「デジタルから離れ休憩するためのデジタル」という概念が私たちには必要になってきているのかもしれません。

また、MediaMonksのプレゼンターKjegwan Leihituは、「90年代のデザインに立ち返ろう」という取り組みを発表していました。彼の作ったadidasのサイトは、私たちの知っているダサいインターネット黎明期のサイトのデザインそのものです。
ですが、彼は言います。「90年代のデザインはたしかに未熟だったけど、Meaningfulだった」「私たちは賞を取るためのデザインではなく、意味のあることにフォーカスしなければいけない」「だからもっと気楽にやろうぜ」と。
彼のあり方は、デジタルデザインに関して様々な要素がある程度成熟してしまった現在において、見た目の美しさやアーキテクチャといった「あるべき論」ではなく、「人間が本来やりたい、楽しい、面白い、というプリミティブな欲求」に立ち返ることの大事さを示唆しているように感じます。

プレゼンテーションだけでなく豊富なワークショップがあるのもDesign Mattersの特徴の1つ。私はタイポグラフィとイラストレーションによるストーリーテリングのワークショップに参加しました。どれも決して正解を求めたり他人と比較するものではなく、「自身と向きあう時間」にフォーカスしていたのが特徴的でした。

デンマークを訪れて

コペンハーゲンに滞在していたのは1週間と少しの短い期間で、おそらく私の視点には多くのバイアスが含まれています。思ったよりも街は汚れているし、歩きタバコをしている人も沢山いるなど、その生活環境には元来のイメージとは違う意外な点も多くありました。

しかし最も印象深かったのは、多くの人が「デンマークにはこういう文化があるんだ、私たちはこれを大事にしているんだ」という根底の思想を持っており、それを他者に押し付けるのではなく「どう活かし、どう自分たちが心地よく生活するのか」にフォーカスしているように見えた点です。

デンマークにはデンマークの、日本には日本の文化の良さがあります。「自分たちが心地よく生きるために、自国文化をどのようにアップデートするべきか」を考え、そのあり方を問う。そんな当たり前の大事さに改めて気づくきっかけになったツアーでした。


2020年1月、日本でもDesign Matters Popup in Tokyoが開催されることが決定しました。
デンマーク文化に触れ、世界のデザインに触れる絶好の機会かと思いますので、興味のある方は下記をチェックしてみてくださいね。

Design Matters Pop-up in Tokyo
山下 あか理 / デザイナー

新卒でWeb制作会社に勤務した後、サンフランシスコにて日本企業の海外支社立ち上げに参画。2013年に帰国・独立し様々なプロジェクトに参加、2014年/2017年に担当プロジェクトでグッドデザイン賞を受賞。現在はFintech領域のデザインを始め、大企業からスタートアップまで様々な企業のサービスデザイン制作・支援を続けている。


その他の体験記事はこちら!
– Design Camp in Denmark参加レポート Design Matters 19 編 – DeNA Design Blog
– Design Camp in Denmarkに行ってきました – in-Pocket インポケット / i3design
– デザインカンファレンスDesign Mattersってどんなところ? – リクルートテクノロジーズ


ご好評につき、Denmark Design Camp を2020年も開催する予定です!
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