外出自粛などを強いられる状況のいま、アジア各都市の人々はどんな思いで、どんな暮らしをしているのだろうか。
アジア11都市に展開するHereNowでは、各都市のHereNowキュレーターやクリエイターにインタビュー取材を実施。それぞれの都市の人々のリアルな様子、悩みや希望を伺った。
ーいまの香港の状況について教えてください。
Ling:3月中は感染者が増えていたものの、4月に入ってからは少しずつ減っています。一方でずっと家にいて、人にも会えないので、疲れも出はじめていますね。香港はコンパクトな住宅が多いので、ストレスがたまっている人も多いかもしれません。
一方で、リモートワークへの移行やプロジェクトの中止などによって、人々の時間に余裕が生まれ、生活がスローペースになったので、比較的平和な時間が流れているのを感じます。
ーコロナ以前に比べて、コロナ以降、どのように意識が変化しましたか?
Ling:最初は不安だったのですが、3か月経ってこの状況に慣れてきました。マスクをする、手を洗う、といった衛生意識や、本当に必要なときにだけ人と会うという認識が、みんなのなかにも浸透していると思います。
それから助け合いの精神も生まれています。香港は「自分は自分、人は人」という、ある種ドライな文化なのですが、いまでは近所の人とマスクを分け合ったりもしているので、大きな変化を感じますね。
外食文化の香港ですが、家で料理する人も増えているようです。また海外への移動がビジネス・レジャーともに盛んな都市ですが、いまはみんなが家にとどまっているのも大きな変化ですね。
ー自分の国と他の国の対応を見て、どう思いましたか?
Ling:香港政府の対応は、決して早いとはいえなかったと思います。3月末には「公共の場で5人以上集まってはいけない」「レストランでは席を半分空け、テーブルの間隔を1.5メートル以上にする」という新しい法律が施行されましたが、これに対して「科学的ではない」と言っている専門家も多いです。
現在のところ感染者は減っていますが、それは政府のおかげというより、ソーシャルディスタンスや手洗いなどを徹底している市民のおかげ、と考えている雰囲気がありますね。
政府の対応に満足しているとはいえないですが、それはどこの国もだいたい一緒なんじゃないでしょうか。とにかく未曾有の事態で、正しい対処法は誰も知らないですから。
ーコロナ以降、逆に良かったと思うことはありますか?
Ling:生活の質は上がったと思います。これまでの香港の日常はとにかく忙しかった。それがいまや、近所の人との関わりができ、家族と過ごせる時間も増えています。大変なときだからこそ、お年寄りや少数民族の人々など、香港というコミュニティーを構成する人々のことをもっと知ろうとしている。もちろんウイルスの蔓延はいいことではないですが、こうした点は良い変化だと感じます。
ー今後、あなたが住んでいる都市・国はどのように変わるべきだと思いますか?
Ling:難しい質問ですね。コロナとの戦いが3か月以上続いているなかで、イースター休暇(4月10日〜13日)には、自然の多い田舎にリフレッシュしに出かけてしまう人もいました。
そんななかでも医療従事者の方々はずっとがんばってくれていますから、感染者が減っているからといって油断せず、家にいる、外に行くときはマスクをする、手を洗うなどの対策を一人ひとりが続けていかなければならないと思います。
香港は、2003年にSARSが流行したときもかなり深刻な状況でした。当時は、学んだことを忘れないぞと思ったはずなのに、実際は必ずしもそうならなかった。今回はこれを時間とともに忘れることなく、よりよい社会をつくるために活かすべきだと思います。
ー自宅待機をするなかで、オススメの時間の楽しみ方は?
Ling:友達のあいだでは、Instagramに料理の写真をあげるのが流行ってますね。私はいままで料理が本当に苦手で、インスタントヌードルとか、シンプルなものしかつくれなかったんですが、いまはいろいろ新しいレシピを探して試しています。料理だけでなく、ケーキを家で焼く人も増えていますね。ただの料理よりも時間がかかりますが、余裕があるいまならおすすめです。
Ling
香港在住のジャーナリスト、ライター、コンテンツクリエイター。
Instagram:https://www.instagram.com/travelinglingling/
ーいまのソウルの状況について教えてください。
Swan:いま、韓国の学校ではオンライン授業をしています。会社はテレワークが推奨されていますが、導入できていない会社もありますね。ぼくはフリーランスのカメラマンで、いまは仕事がすっかりキャンセルになっていますが、国から緊急災害支援金が支払われて助かっています。
一人あたり、毎週2枚のマスクを買える制度があるので、出かけるときはみんなマスクをしています。地下鉄では「マスクをしましょう」「くしゃみをするときは口を腕で隠しましょう」「熱がある人はこの電話番号に連絡しましょう」といった放送が流れています。最近は、レストランには前より人が増えていますが、ライブハウスや美術館といった文化施設は休業のままです。
ーコロナ以前に比べて、コロナ以降、どのように意識が変化しましたか?
Swan:アメリカ、ヨーロッパの国々など、大国がここまでの状態になってしまっているのを見ると、やはりショックですね。自分自身はよく日本に行っていて、この3月からも3か月くらい行く予定だったのですが、今年は難しいだろうなと思って、悲しいです。仕事がないのもあって、気分が落ち込みますね。
まわりを見ていると、いろんな人がいるなと感じます。危機意識をしっかり持っている人もいれば、人のいうことを聞かずに外で遊んでいる人とか。やるせないですね。
ー自分の国と他の国の対応を見て、どう思いましたか?
Swan:韓国政府は、うまく対応していたと思います。政府の対応には、基本的に満足している人が多いんじゃないでしょうか。一日あたりの新規感染者数も減ってきていて、最近も一桁の日がありました。でも、ここで油断は禁物だと思っています。
ぼくにとっていちばん身近な外国は日本です。Twitterなどで日本の状況も見て、心配ですが、自分にできることがないのが悔しい。マスクを送りたくても、いまは決まりで送れないですしね。
ーコロナ以降、逆に良かったと思うことはありますか?
Swan:人々の衛生意識が向上しているのは良かったと思います。地下鉄など、人が多いところで咳をするときにちゃんと口を隠したり、マスクをしたり。手もきちんと洗ったり。病気が流行る前はけっこうちゃんとしていない人もいて、ぼくは気になっていたんですが、いまは安心な感じです。
ー今後、あなたが住んでいる都市・国はどのように変わるべきだと思いますか?
Swan:マイノリティーというんでしょうか。たとえば何かの理由で仕事ができない人や、身体が不自由な人、お年寄り、外国籍の人々といった、メインストリームではない人たちへの社会からのサポートが、もっと手厚くなるといいと思います。そういう人たちの声を聞くことも大切だと思います。
ー自宅待機をするなかで、オススメの時間の楽しみ方は?
Swan:自分のポートフォリオやホームページをつくったりしていました。あとはNetflixでドラマや映画を見たり……最近は韓国ドラマの『キングダム』とか、スタジオジブリのアニメを久しぶりに見て楽しかったですね。『どうぶつの森』『ファイナルファンタジー』など、ゲームもたくさんやってます。
Swan Park
ソウル在住のフリーランスのカメラマン、映像作家。アートや建築、音楽などの分野で、ソウルと東京を行き来しながら活動中。
ーいまのシンガポールの状況について教えてください。
Marilyn:4月7日からロックダウン(都市封鎖)措置がスタートしました。観光客はもちろんいませんし、高速道路の車も少なく、街がとても静かでびっくりします。
生活必需品を買うために外出することはできますが、ソーシャルディスタンスを保っての行動がマストですね。外で咳やくしゃみをしたとき、周囲からすごく視線を感じます。
「ホーカーセンター(屋台村)」も営業していて、食事をテイクアウトできますが、その場で食べるのはNG。300シンガポールドルの罰金が課せられます。

Marilyn:私と同じアパートには、80〜90歳くらいのまだ働いている女性が住んでいるのですが、カートを押して働きに出ている姿を見ると、少し悲しくなりますね。
若者はインターネットの楽しみ方も知っているから、家にいるのもそれほど苦ではないけど、年配の世代にとっては外出する生活スタイルが染み付いているので、いまの状況は結構つらいんじゃないかなと思いますね。
ーコロナ以前に比べて、コロナ以降、どのように意識が変化しましたか?
Marilyn:政治、経済、環境、資本主義など、いままで当たり前に感じていたことを「そもそもなぜこうなんだろう?」とあらためて考え直す機会になっていると思います。
もちろん多くの人が命を落としているのは悲しいことではありますが、立ち止まって考えるいい機会だと捉えています。
中国に住んでいる友人は、仕事が休みになったおかげで「空がこんなにも綺麗だったって初めて気がついた」って言っていましたね(笑)。それまでは気づかなかったというのだからびっくりです。
ー自分の国と他の国の対応を見て、どう思いましたか?
Marilyn:他の国と比較してどうとは言いたくないですが、シンガポール政府の対応にはおおむね満足しています。
シンガポール政府は、SARSコロナウイルスが流行したときも動き出しが早くて、当時私が通っていた学校もすぐに休校になったのを覚えています。
ただ、外国人労働者が住む地域では、感染が急速に拡大しつつあるので、もっと素早く対応すべきだったのではないかなとも思います。
ーコロナ以降、逆に良かったと思うことはありますか?
Marilyn:家族と話す時間は増えました。私の体調を気にかけてくれるし、大切にしないといけない存在ですね。国民全体に「思いやり」が広がっているようにも感じます。
ー今後、あなたが住んでいる都市・国はどのように変わるべきだと思いますか?
Marilyn:外国人労働者が住む地域への対策や、廃れてしまった観光産業の回復に務めてほしいと思いますね。
ー自宅待機をするなかで、オススメの時間の楽しみ方は?
Marilyn:私は外に出るのが好きなタイプなので、Netflixを契約していてもあまり見たことがなかったんです。でも、今回の一件があってからすごく活用するようになりました。
おすすめは、Dr. Dreとジミー・アイヴォンのドキュメンタリー『The Defiant Ones』です。ヒップホップにも全然興味なかったのですが、パートナーのおすすめで見始めたらすっかりハマっちゃって。この機会のおかげで、新しいジャンルにチャレンジできて良かったですね。
Marilyn
シンガポール在住のデザイナー。デザイン集団「Knuckles & Notch」を運営している。
WEB:https://knucklesandnotch.com/
Instagram:https://www.instagram.com/knucklesandnotch/