「クラブって楽しいですか?」 新世代ヒップホップユニットTHE OTOGIBANASHI’Sインタビュー

Bim、in-d、PalBedStockの3人がTHE OTOGIBANASHI’Sを結成したのは、彼らがまだ高校生のときだった。2010年代のヒップホップユニットらしく、YouTubeに公開した一本の動画によって大きな注目を集めたのだ。今では洋服ブランドも展開し、限定アイテムの発売には前日の夜から行列ができるほどの人気を見せる。
彼らが「ヒップホップ」という大河の流れの中にいるのは間違いないのだが、未だ20代前半のこの3人からは、かつてのラッパーのイメージとは違う「何か」を感じる。それが、東京や彼らの出身である神奈川の「今」を映し出しているのかもしれない。メンバーのBim(ビム)とin-d(インディ)に話を聞いた。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

オリジナルを追求したいとは思ってない。

―みなさんの地元は神奈川とのことですが、高校生でヒップホップグループを始めるにあたって、出身が何かしら関係していたと思いますか?

Bim:周りにヒップホップ好きの友達がたくさんいたわけではないので、あんまり関係ないとは思うんですけど、渋谷とかにすぐ行けたっていうのは大きかったかもしれないです。イベントに行って、実際にラッパーと話をしたり、エイプ(A BATHING APE)に行って、中学生とかだったからまだ買えなかったけど、雰囲気だけでも味わったり。もっと東京から遠いところに住んでたら、「大学に入ってからやろうか」みたいな感じだったかも。

—もともとストリートカルチャーへの憧れが大きかったのでしょうか?

Bim:音楽と洋服はもともと別々に好きで、今はそれが一緒になったって感じですね。

in-d:僕も同じで、最初は別々に考えてました。まず先にヒップホップに興味を持って、「あの人あれ着てるんだ、かっこいいな」みたいな感じで、洋服にも興味を持って、実際に自分がヒップホップをやり始めて、より密接になった気がします。

—グループを組んでいる上で、目標にしている人たちはいるんですか?

Bim:好きなアーティストはいっぱいいますけど、誰かのようになりたいっていうのはないです。自分たちは自分たちの仲間で好きなことをやっているというか。そのなかでヒップホップが一番かっこよかったから、という感じです。

—現在のTHE OTOGIBANASHI’Sらしさを、ご自身たちではどう捉えていますか?

Bim:単純に、かっこいいものを作りたいだけなんです。別にオリジナルを追求したいわけでもなくて、自分たちが納得してかっこいいと思えるものを作れればそれでいい。「こんなの聴いたことない」っていう要素を入れるのももちろん好きですけど、それが入ってない方がかっこいいと思ったら、そっちの方がいいというか。

in-d:メンバーそれぞれ好きなものは違うと思うんですけど、基本的にやりたいことはすごい近い気がしてて。その結果が、俺たちらしさっていうことかもしれないです。

俺らのことを好きだと思ってくれる人と会って話しがしたい。

—では、仲間うちでやっているクルー「CreativeDrugStore」はどのように始まったのですか?

Bim:“POOL”のPVを作ってたぐらいのときに、俺が「クルーやろう」って、何人かに連絡したんです。そのときは結局そんなに動きがなかったんですけど、THE OTOGIBANASHI’Sにいろんな動きが出てきて、サポートが必要になってきたので、「そろそろクルー名決めようか?」みたいな感じで始まりましたね。

―CreativeDrugStoreには映像担当もいたりして、いろんなことができる人たちを集めたという感じでしょうか?

Bim:いや、自分一人では何もできないからこそ、グループにしたっていう感じですね。レコーディングをするにしても、スタジオとか超高いから借りるの無理で、だったら、自分たちの家でやるしかない。そのとき高校生だったし。十人が一万ずつ出せば、十万になるわけじゃないですか? 十万あれば、俺らがやりたいことの地盤は作れるというか。“三人寄れば文殊の知恵”じゃないですけど、一人一人では何もできないからこそ、チームを作ったんです。

—では、主催するパーティー「PopUpShop」に関しては、どのようなコンセプトでスタートしたのでしょうか?

Bim:まず、お客さんと話したいっていうのがありました。俺も実際に好きなアーティストと会って、話してみて、その人のことをもっと好きになったりしたんですよね。その人の部屋にどんなものが置いてあるのかを訊いたり、本人が目の前にいて、「あ、あの雑誌で見た服装だ」っていうのが、すごい楽しかった。なので、俺らのことを好きだと思ってくれる人ともしゃべりたいと思って、最初はホントお客さん100人ぐらいだったんですけど、次は友達を連れて来てくれて150人になり、どんどん増えてって感じです。

—自分たちの遊び場を作りたかったと。

Bim:お客さんも会えたら嬉しいと思ってくれると思うし、俺も話したいんですよ。先日渋谷WWWでワンマンライブだったんですけど、「PopUpShop」にいた人たちがお客さんでバーッていたし、限定販売したTシャツを着てれば、「あのとき来てくれてたんだ」って、直接話してなくてもわかるじゃないですか? そういうのも嬉しいんですよね。

—今ってネットでアーティストとお客さんが繋がれる時代でもあるけど、やっぱりリアルな場所があることが重要だった?

Bim:ファレルのツイートは見てるけど、別にファレルと繋がった気にはならないし、「曲を聴かせていただいてます」みたいな感じなんですよね。でも、せっかく日本でヒップホップやってて、俺らのファンはほぼ日本のお客さんなんだから、ちゃんと直接話したいなって。自分も前にRIP SLYMEとかニトロ(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)とかの出待ちをして、話ができたときは「やべえ!」ってなって、全然ヒップホップに興味ない親とかにも話しましたもん(笑)。

クラブって楽しいですか? 酒買うのもお金かかるじゃないですか?

—普段はどんなところで遊んでるんですか?

Bim:そうですね……俺らあんまり遊ばないんですよ(笑)。「今日1日オフです」って言われたら、何するかな……ダーツか!

—ダーツ(笑)。クラブとかはよく行きますか?

Bim:先輩がライブするとかだったら行きますけど……ホント、先輩に誘われたときぐらいですね。てか、クラブって楽しいですか? 酒買うのも結構お金かかるじゃないですか?

—意外ですね。いつもクラブで遊んでいるのかと思ってました。

Bim:そういうところに行くよりも、自分たちのとこに呼んじゃいますね。今二子玉川にCreativeDrugStoreのメンバーがルームシェアしてる事務所みたいなところがあって、俺はそこに居候してるんで、そこが拠点って感じです。

—渋谷とか原宿に遊びに行ったりは?

Bim:前は原宿あんまり好きじゃなかったんですけど、最近好きですね。展示会シーズンとか、原宿が盛り上がってるときにしか行かないですけど、そういう時期の原宿は好き。The Good Company(NY発のSHOP「The Good Company」が期間限定で開いたPOP UP SHOP)に行ったときとか、超楽しかった。

—普段は行かない?

Bim:普段はダメですね。高校のときとか原宿のどこに行ってたっけ? SUPREME、A BATHING APE、STUSSY……。

in-d:で、明治通り歩いて渋谷。

Bim:で、結局カラオケして帰るじゃん? でも、今はもう服は自分らのか、ネットで買うでしょ? カラオケはもうあんまり行かなくなって、それがダーツになったけど、それは地元でいいじゃんっていう(笑)。

in-d:あと原宿とかは人多いしね。

Bim:人が多いのは好きだけどね。

in-d:えー、俺は無理無理。

Bim:「Bimさんですか?」とか言われたら嬉しいじゃん。全然言われないから、言われたときは「マジすか?」ってなる(笑)。

—昔は渋谷や原宿で遊ぶことがひとつのステータスだったけど、今はそういう場所に行くことよりも、自分たちのコミュニティで遊んだり、遊び場を作ることの方が重要だっていうこと?

Bim:あんまり気にしていないけど、そうなのかもしれないっすね。

世代って、なんですか?

—THE OTOGIBANASHI’Sのお客って、どんな人が多いですか?

Bim:同じ世代が多いと思います。20代前半とか? 結構みんな、おとなしい感じですよ。 すっごいガツガツ来る人もいるけど、全体的にはおとなしめかな、って。ただお洒落な人が多いかも。絶対俺よりも服に金使っている感じがするし(笑)。

—そういう、おとなしくてお洒落な人が多いというのは、世代的なところなのかな?

Bim:よくそういう風に年上の人からは、「世代」っていわれるんですけど、それって関係あるんですかね? よくわかんないです。やっぱ、まだまだ有名でもない自分たちのことを調べてくるっていう時点で、マニアックというか、少しオタクのような人が多い感じになるのかなって。だから「世代」の違いっていうよりも、「性格」の違いのような気がする。

in-d:でも、アドレスを聞いてくる積極的な人もいるっしょ。全体的にはおとなしい人が多いかもだけど。

—そういう若者に支持されているのが、THE OTOGIBANASHI’Sであり、CreativeDrugStoreであって、そういうコミュニティから新しい何かが生まれていく感じはします。

Bim:ただ仲の良い友達たちと遊んでいるだけですけどね。でもこの前のワンマンもそうだけど、みんなでやれて面白かったなぁってすごく思いました。絶対自分1人じゃできなかったというか。チームじゃなかったら、こんな大きいことできないと思って。特に俺は、チームだから出せる空気感やグルーブ感が一番面白いなって思うんです。

海外のラッパーに認められたい。

―最新作『BUSINESS CLASS』についても訊かせてください。ここまで話してもらったように、THE OTOGIBANASHI’Sは「上昇志向」みたいな、ステレオタイプなラッパーのイメージとは違って、それは作品性にも表れていると思うんですね。デビュー作の『TOY BOX』が出た頃は、「空気感や雰囲気を大事にしたい」という話をよくされていたかと思うのですが、今回の作品もそういったことがポイントになっていると言えますか?

Bim:前までそれを言い続けてたので、今回「それはもういいわ」と思って、普通に踊れたり、テンションが上がるものを作ろうと思ったんです。でも、結局俺の中の楽曲の合格ラインには、曲の空気感とか色合いが絶対に入ってくるので、それを意識して作ったわけではないですけど、自分の中にそれは必ずあるんだなって思いました。

―「ディズニー×ヒップホップ」という話もされていたかと思いますが、それに関しては?

Bim:前のアルバムを作ったときは、まだやりたいことがはっきりしてなかったから、「好きなものなんだっけ? ディズニーか!」って思って、そういうワクワク感があったと思うんですね。でも、今はディズニーっていうよりも、ピクサーって感じです。前は「白雪姫」とか「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」みたいな、一人で静かに楽しむものだったけど、今回は「バッグス・バニー」とか「トムとジェリー」みたいな、もうちょっとドンチャン感のある楽しさになってると思います。

―では最後に、今回“Department”のミュージックビデオの撮影でニューヨークに行かれたそうですが、今後海外へ活動を展開させたいとかはありますか?

Bim:海外のラッパーに認められたい気持ちはありますね。全然英語喋れないすけど(笑)。

―実際には、どういうことをやっていきたいとかは?

Bim:ただ単純に仲間とかっこいいものを、もっともっと作っていきたいって感じです。今までずっと作ることしかしてないけど、それを続けていくだけというか。PVも服も音楽もイベントも、自分たちが楽しそうって思うことを作ってきただけ。あ、でも俺いま、めっちゃ雑誌つくりたいです。一回でもいいから。インタビューとかすごいやってみたいし。

in-d:雑誌、楽しそうだな! 確かに。

Bim:あ、でも雑誌は1人でつくりたいな(笑)。

プロフィール
THE OTOGIBANASHI’S (じ・おとぎばなしず)

日本在住のヒップホップ・ユニット。メンバーはBim,in-d,PalBedStockで構成されている。通称O’S BOYS。 SUMMIT,CreativeDrugStore所属。2011年に結成。2012年にYouTubeに公開された『Pool』が話題となりSUMMITに加入。翌年、4月26日にファーストアルバム『TOY BOX』をリリースし、大きな反響を呼んだ。 O’S BOYSが所属するチーム“CreativeDrugStore”は不定期でPopUpShopというパーティを開催しており、毎度オープン前にはスプラッシュマウンテンのような列ができている。2015年8月5日には、セカンドアルバム "BUSINESS CLASS" をリリースした。



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