清澄白河のコーヒー店『ARiSE COFFEE ROASTERS』が、ローカルと世界中の旅人から愛されるワケ

清澄白河が「コーヒーの町」と呼ばれるようになったのはいつからだろう。のんびりとした下町情緒あふれるこの町に、ブルーボトルコーヒーの日本1号店がオープンするやいなやカフェが急増。今もなお新しい店が増え続け、ここ数年、清澄白河は、雑誌・TVなどで取り上げられることも多い。 そんな清澄白河の中で、日々淡々と焙煎し、コーヒーを淹れ続けているのが『ARiSE COFFEE ROASTERS(アライズ コーヒー ロースターズ)』だ。たった6坪の店内に、おいしいコーヒーがあって、心地よい会話で隣り合う人同士が自然と心開いていく不思議な魅力を持ったお店。下町の小さなコーヒーショップ『ARiSE COFFEEROASTERS』が、清澄白河の老若男女、そして国籍問わず多くの旅人が集まるワケをゆっくりと紐解く。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

近所のおじいちゃんから、海外のツーリストまで集うコーヒーショップ

清澄白河駅から歩いて10分。お寺や路地を通り抜けた先の交差点にコーヒーショップ『ARiSE COFFEE ROASTERS』がある。朝の光がふわりとさしこむ店内に漂う、コーヒー豆の香ばしい香り。そして、近所のおじいちゃんの隣に海外のツーリストたち。犬の散歩がてら立ち寄るお姉さん、外から手をふる小学生と、たちまちお店は人でいっぱいになる。これが『ARiSE COFFEEROASTERS』の日常だ。

オーナーの林大樹さんは、老舗の焙煎卸会社『山下コーヒー』で10年にわたり勤務した後、2012年に清澄白河にオープンしたロースタリー兼カフェ『The Cream of the Crop Coffee』の立ち上げに尽力した。

林:もともと独立志向が強い人間ではなかったんです。でも組織にいると、どうしても自分の方向性と合わなくなる瞬間があって。たとえば組織が決めた豆を提供するのではなく自分のおすすめの豆を出したいとか。そんな小さなジレンマが積み重なって独立することを決断したんです。

林さんは、お店を出すなら自宅近くの清澄白河と決めていた。路地という路地を歩き回り、たまたま見つけた小さな6坪の店舗。2013年9月、この地に『ARiSE COFFEEROASTERS』をオープンした。

あえてメニューは用意しない。対話からオーダーを決めていく

林さんの一日は、コーヒー一色だ。朝10時にお店を開けると同時にやってくるツーリストや、出勤前に立ち寄る会社員、そして豆を買いに来る清澄白河の住人。お客さんとの和やかな会話の間に豆を挽き、挽きたてのコーヒー粉にお湯を注ぎ、ハンドドリップで一つひとつ丁寧に淹れていく。

店内には常時10種類以上のコーヒー豆が並ぶ。どんなに行列ができていても「今日はどれにする?」「ドミニカがおすすめですよ」とお客様の希望を聞き、その人の要望に合ったコーヒーを伝える。

林:うちではあえてメニューを用意していません。豆の標高や産地というスペックを載せると、お客さんが過去の経験を元にコーヒーを選んでしまうんですよ。店にはたくさん豆がありますから、お客さんから「エチオピアが好き」って聞けば「フルーティーなタイプでニカラグアのパカマラを試してみかせんか?」と提案するよう心がけています。

『ARiSE COFFEE ROASTERS』の特徴をあげると、特にアジアのコーヒー豆が多いのに気づく。ミャンマー、タイ、フィリピン、ラオスなどなど、他のコーヒーショップではあまり目にしない産地のコーヒー豆を扱う。そう言えば取材当日、店内に流れる音楽はタイの東北部の伝統音楽・モーラムで、焙煎機にはバンコクのチャトゥチャック・ウィークエンド・マーケットで入手したというスカルのオブジェが吊り下げられていた。

林:僕、アジア推しなんですよ(笑)。最近のアジアは技術革新や設備投資が進み、中南米やアフリカ諸国に引けを取らない豆が出てきていて、それを好んで仕入れています。特にタイには焙煎を教えに行くことも多くて、農園やコーヒーショップのオーナーさんと仲良くなって独自のルートで豆を輸入しています。

お客さんは神様ではなく、対等な存在

『ARiSE COFFEE ROASTERS』に入ると、正面がコーヒーカウンター。左手に大きな焙煎機があり、4人がけのベンチと一人がけの椅子が3脚と、なかなか狭い店内なのだが、なぜか心地が良い。そしてお店に入る前は他人同士だった人が、林さんとの会話を機にあっという間に馴染んでいく。

林:よく店内のお客さんが全員常連!? って言われますけど、実際ははじめましての人も多いですし、みんなバラバラ。以前、沖縄のコーヒーショップをめぐったとき、海外の人も地元のおじい・おばあも、子どももみんな共存している空気感がすごく素敵だと感じて。だから自分のお店にもそういう雰囲気を取り入れたいと思っているんですよね。

そう話すように、林さんは誰に対してもフラットだ。常連さんをひいきすることもないし、はじめての人にも気さくに話しかける。接客で気をつけていることは何ですか? と聞いたところ「そもそも接客だと思ってないです(笑)。お客さんは、対等な人間。リラックスできるように、とは心がけてはいますが、逆に周りに迷惑かけるような人にはとっても厳しいですよ(笑)」と笑いながら返してくれた。

なぜ、毎日世界中からツーリストたちが集まるのか?

『ARiSE COFFEE ROASTERS』には海外からやってくるツーリストが本当に多い。「For here, or to go?」と聞くことから始まり、ツーリストの出身国が分かればその国の話をする。林さんと母国の話で盛り上がり、はにかみながらも嬉しそうにしている人を何度も目にする。ではなぜ、海外旅行客は『ARiSE COFFEE ROASTERS』に集まるのだろうか。

林:きっかけは、海外のコーヒーショップの店員さんが来てくれるようになったことです。自国で僕のコーヒーを周りに紹介してくれて、口コミでどんどん広がっていっているみたいですね。最近は台湾の方が多いです。台湾で影響力がある『Fika Fika Café』のオーナーがここのコーヒーをべた褒めしてくれて。他にも香港、タイ、アメリカ、オーストラリアなど客層は幅広いです。

取材中も香港、台湾、インドネシアからお客さんがやってきた。ツーリストとご近所さんが入り交じる店内はちょっぴり不思議だが、そこに違和感はそんなに感じない。

林:嬉しいのが一度だけじゃなく何度も来てくれるんですよ。また来たいからと言って、自分たちの国のお札を置いていったり。僕もせめてもの気持ちを伝えたくて「ありがとう」と「さようなら」だけはその国の言葉で話すようにしています。

『ARiSE COFFEE ROASTERS』を続けることが、人生で一番豊かなこと

『ARiSE COFFEE ROASTERS』のある清澄白河には、人の縁を大切にする文化が色濃く残っている。町ごとに団結して神輿を担ぐ祭があったり、道端で困っている人がいたら声をかけたり、お店同士がショップカードを置き合ったり。

林:清澄白河には、ゆるやかな助け合いがあるんですよね。僕も同業であるカフェであっても、おすすめのお店はどんどん紹介します。うちはドリップコーヒーがメインなので、ラテが飲みたい人には近くにある『ALLPRESS ESPRESSO』や『ブルーボトルコーヒー』を紹介したり。逆に彼らも「豆を選びたいならアライズに行くと良いよ」って紹介してくれることも多いんです。

林さんは清澄白河に住んで17年、お店を持って4年。地元の人から観光客まで集う『ARiSE COFFEE ROASTERS』は「清澄白河の中心だ」と口にする人も多い。清澄白河という場でこれから5年、10年と年月を重ねるにあたって林さんは何を目指すのだろうか。

林:清澄白河は盛り上がっていますが、今の流れに乗って何かをすることは全く考えていないですね。今までと変わらずお店で焙煎し、コーヒーを淹れることが望み。僕、この場を持っていることが人生において一番豊かだと思っているんですよ。

その瞬間、昔からの常連さんがぽそっと口を開いた。 「やっぱりコーヒーがうまいんだよね。このお店に人が集まるのはコーヒーありきだよ」 と。

林:僕は声高に「うちのコーヒーは……」みたいなうんちくを語ることはしません。もちろん、お客さんの期待に添えるよう努力はしていますけど、コーヒーショップでコーヒーがおいしいのは当たり前だと思うから。

焙煎する。コーヒーを淹れる。人との壁を作らず、心地良い場を作る。言葉にすると当たり前のように思えるが、それを実践するお店が東京にいくつあるのだろうか。

林:そしてこのお店の6坪が大好きなんです。店先を通る子どもたちの成長を見守ったり、コーヒーを介して近所のおじいちゃんから海外から来る人までつながりを持てたり。イベントを企画したり、特別なことをしなくたって良い。だって『ARiSE COFFEE ROASTERS』には毎日色んな人が来てくれて、コーヒー片手に話が弾んで。すべてのことが大切で、楽しくて、それこそがお祭りみたいなものですから(笑)。

当たり前に思ったことを、当たり前にやり、それを続ける。そんな毎日の日常こそが、『ARiSE COFFEE ROASTERS』を育てる。それが、ローカルから世界中の旅人まで、多くの人に愛される、このお店の魅力なのかもしれない。

店舗情報
ARiSE COFFEE ROASTERS
住所 : 東京都江東区平野1-13-8
営業時間 : 10:00~18:00
定休日 : 月曜日
電話番号 : 03-3643-3601
最寄り駅 : 清澄白河駅、門前仲町駅
Webサイト : http://www.arisecoffee.jp/


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