これも美術館? 東京から日帰りで行ける個性派アートスポット紹介

東京には、美術館やギャラリーなどのアートスポットが1日では回りきれないほどたくさんあり、現代アートから古美術、メディアアートまで、何でも楽しむことができます。しかし、さらにディープでユニークなアートを体験したいなら、東京から郊外に足を運ぶのがおすすめ。そこには濃密な体験ができるアートスポットがいくつも点在しています。今回は、大御所の建築から超個性派まで、「都心から日帰りで行けるアートスポット」をご紹介。旅の一日を使って、ぜひ訪れてみてください。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

東京駅から高速バスがオススメ。プリツカー賞を受賞した磯崎新の建築『水戸芸術館』

茨城県水戸市にある『水戸芸術館』は、1990年に開館した複合文化施設。「コンサートホールATM」(音楽)、「ACM劇場」(演劇)、「現代美術ギャラリー」(美術)という3つの部門の施設から成り、それぞれに自主性の強い企画や展覧会を実施している。

設計は、2019年に「建築のノーベル賞」とも呼ばれる「プリツカー賞」を受賞した磯崎新。

同館の2階にある「現代美術ギャラリー」は、遠方からわざわざ足を運ぶ価値のある批評性の高い展覧会を多く開催することで知られる。

過去には『日本ゼロ年』展(1999)や『夏への扉 マイクロポップの時代』展(2007)など、日本の現代美術史を語るうえで欠かせない企画展が開催。

近年も、自然光の入る展示室を生かした内藤礼の個展や、「霧の彫刻」で知られる中谷芙二子の個展(ともに2018)が注目を集めた。

いっぽう同館は、関東圏で見られる磯崎建築の代表作でもある。先ほど触れた3つの施設は、それぞれ六角形(コンサートホール)、十二角形(劇場)、部屋の連続による二列の空間(ギャラリー)と、幾何形態を用いた特徴的なつくり。

屋外には水戸の街のシンボルでもある、高さ100mの螺旋型の塔がそびえ立つ。パイプオルガンの置かれた教会風のエントランスホールや、建物の前の広場も含めて、西洋の建築や街並みへの連想を誘う、磯崎建築のエッセンスが凝縮された施設だ。

都心からのアクセスは、東京駅八重洲南口から出ている高速バスがオススメ。東京近郊にある外せない定番のアートスポットとして、足を運びたい場所のひとつだ。

水戸芸術館
住所 :茨城県水戸市五軒町1-6-8
開館時間 :9:30~18:00
閉館日 :月曜(月曜が祝日の場合は火曜)、年末年始
URL : https://www.arttowermito.or.jp/

奈良美智の展示スペース『N’s YARD』など、温泉の街・那須塩原にアートスポットが続々誕生中

おなじ北関東でもうひとつ紹介したいのが、栃木県の那須塩原市に点在する一連のアートスポットだ。

温泉地や酪農の街として知られる同市では、近年、大御所アーティストのアートスペースがオープンしたり、市主導のアートプロジェクトやアートフェスティバルが展開されるなど、「現代アートの街」としての存在感を見せ始めている。

市内の森にポツンとある『N`s YARD』(2017年オープン)は、アジアや欧米でも高い人気を誇るアーティスト・奈良美智のアトリエのような雰囲気のアートスペース。

奈良は現在那須を活動拠点としており、『N`s YARD』では、彼の未発表作品や、収集したレコードジャケットやオブジェ、コレクション作品を通して、その創作の空気感を親密に感じることができる。

スペース内には、奈良こだわりのインテリアによるカフェや、モミの木がモチーフの屋外作品『森の子』も展示。冬季は休館なので、訪問前にはサイトをチェックしよう。

そして『N`s YARD』から車で10分弱の場所にあるのが、2008年に開館した『菅木志雄 倉庫美術館』だ。

菅木志雄は20世紀半ばの美術動向「もの派」の代表的作家で、現在は国際的に評価される。彼の大小さまざまな作品約300点が常設展示された美術館は、朝10時から1時間のみの開館で、予約制のツアー形式。スタッフの解説を聞きながら、その思索に満ちた作品世界を存分に体感できる。

また同美術館は、創業468年の旅館『板室温泉大黒屋』に併設されているが、旅館にある『大黒屋サロン』でも毎月多様なジャンルの企画展が行われている。旅館への宿泊も含め、セットで体験したいスポットだ。

さらに那須塩原市では、今年より「ART369プロジェクト」と称したアートによる地域活性化の取り組みが行われている。

その一環として、今年3月には金氏徹平や川島小鳥ら人気作家6名が参加した『アート369フェスティバル』を開催。

フェスティバルの今後の開催予定は未定だが、4月には、旧小学校を障害者が働くレストラン・カフェや展示スペースとして再利用した『北風と太陽』がオープン。レストラン・カフェでの食事を楽しみながら、心地よい空気のなか、気軽にアート作品に触れ合える。

静かな環境で、幅広い分野のアーティストの作品や文化体験ができる那須塩原市。アートファンにとっては、これからますます注目の場所になりそうだ。

N`s YARD
住所 :栃木県那須塩原市青木28-3
開館時間 :10:00〜17:00(毎年12月下旬から3月下旬まで冬季休館)
閉館日 :火曜、水曜
URL : http://www.nsyard.com
菅木志雄 倉庫美術館
住所 :栃木県那須塩原市板室856
開館時間 :10:00〜約1時間(要事前予約) ※荒天の際はツアー中止の場合あり
URL : http://www.itamuro-daikokuya.com
大黒屋サロン
住所 :栃木県那須塩原市板室856
開館時間 :9:00〜17:00
閉館日 :板室温泉大黒屋の休館日に準ずる
URL : http://www.itamuro-daikokuya.com
北風と太陽
住所 :栃木県那須塩原市戸田2
開館時間 :11:00〜16:00
閉館日 :火曜、水曜

山奥の小屋で宇宙意識につながるアート体験『フェンバーガーハウス』

どうせ遠方に行くなら、さらにユニークな体験がしたい。そんな人に推薦したいのが、長野県佐久市の里山にある『フェンバーガーハウス』だ。

2011年にオープンしたこのスポットは、東京のNPO法人「アーツイニシアティヴ トウキョウ(以下AIT)」の副ディレクターでもあるロジャー・マクドナルドが、自宅近くの空き家を使って始めた私設美術館。

もともとアートと宗教や神秘体験との関係を研究してきたマクドナルド。「宗教」や「神秘体験」と聞くと、怪しげな印象を持つかもしれない。だが、「洞窟絵画からシャーマニズムまで、アートは古くから宗教的体験と深い関わりを持ってきた」と彼は語る。

この私設美術館内にある『宇宙意識美術館』では、彼が所有する曼荼羅から現代美術まで古今東西の作品を通して、日常を超えた「変性意識」とアートの関係を味わえる。

完全予約制で、1回につき6人限定で開催されるその体験ツアーは、きわめて個性的な内容となっている。

参加者はまず、最寄りの佐久平駅からマクドナルドの送迎で目的地までたどり着く。歓迎のお茶を楽しんだあとは、対話をしながら『宇宙意識美術館』の作品群を体験して回る。

地元の食材を使ったヴィーガン料理の昼食を食べたのち、こだわりの音響システムで音楽を聴きながら、思い思いの時間を過ごす。この時間は瞑想をするのもただ寝るのも、参加者の自由だ。そしてティータイムを終えて、ふたたび佐久平駅に送られたところでツアーは終了。約6〜7時間のプロセスになっている。

背景にあるのは、近代的な作品鑑賞への問いかけだ。私たちは美術館などで、集中した状態で作品に触れることに慣れているが、リラックス状態での鑑賞体験により、「アートのあり方も、身体やマインドのあり方も解きほぐしたい」とマクドナルドは語る。

東京駅から佐久平駅までは、北陸新幹線で約1時間20分。予約はAITのウェブサイトで可能だが、ツアーは5月から10月のあいだしか行われないので要注意。アートの新しい楽しみ方を体験したい人には、ぜひ訪れてほしいスポットだ。

フェンバーガーハウス
住所 :長野県佐久市望月2179−177
開館時間 :完全予約制。毎年5月〜10月にツアーを開催しているが、2019年は9月頃開館予定。予約方法や開催時期など、詳細は以下のウェブサイトを参照のこと。
URL(フェンバーガーハウス): https://www.fenbergerhouse.com

東京駅からJRで約1時間半。若手作家のリアルな生態が覗ける『国立奥多摩美術館』

最後に紹介するのは、『国立奥多摩美術館』。名前を聞くと、東京西部の奥多摩町にある国立美術館を想像するが、そうではない。じつはその実態は、奥多摩町の隣の青梅市にある旧製材所を拠点とする、若手作家が企画するプロジェクトの名称なのだ。

『国立奥多摩美術館』は作家の佐塚真啓や永畑智大を中心に、2012年に発足。以来、普段はシェアアトリエとして使う旧製材所を舞台に、展覧会や映像作品の発表を断続的に行ってきた。

また、2017年の『六本木アートナイト』への参加や、2020年に開催予定の『gallery αM』(東京都中央区)での企画展示など、拠点外での活動も展開している。

活動の背景には、メンバーの「作家の自立とは?」という切実な問題意識がある。

その思考の過程のなかで、美術館やギャラリーなどといった既存の制度にとどまらず、「発表の場を自身でつくること」や「鑑賞者との対話が生まれる状況をつくること」の重要性を感じた彼らは、虚構の美術館を立ち上げ、美術を見せることや、作品発表の場そのもののあり方を問うような活動を行ってきた。

そのため『国立奥多摩美術館』における展示は、従来の美術館では行うことが難しい形態に挑んだものが多い。

たとえば2012年に初開催された『国立奥多摩美術館 開館記念展示〜青梅ゆかりの名宝展〜』では、永畑が製材所の床を外し、眼下に流れる川とのあいだで巨大な「ししおどし」を制作。

参加者の和田昌宏は、映画『ザ・フライ』や『2001年宇宙の旅』から着想を得た上下逆転する回転式セットを組み上げ、そのセット内で行ったパフォーマンス映像を展示した。

ここでは鑑賞者もまた、生の身体経験を伴いつつ、「美術作品を見ることとは何か?」を考えさせられる。

彼らが活動拠点とする『国立奥多摩美術館』は、都心から電車で約1時間半の軍畑駅で降り、10分ほど歩いた高水山の登山道の入り口近辺にある。

展覧会は不定期で行われるため、訪問前にはチェックが必要だが、2019年10月にはふたたび展覧会を開く予定だという。東京の若手作家のリアルな生態を覗きたい人は、ぜひ注目を。

国立奥多摩美術館
住所 :東京都青梅市二俣尾5-157
開館時間 :展覧会による。詳細は以下のSNSを参照のこと。
URL(Facebook) : https://ja-jp.facebook.com/moao.jp/
URL(Twitter) : https://twitter.com/moao_jp


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