いま、スナックがおもしろい。『ハイパースナックサザナミ』に見た、混沌の先にあるモノ

親しみを込めて「ママ」「マスター」と呼ばれる店主が営むスナックは、常連客が集い、お酒を片手にフレンドリーな時間を過ごす地域密着型の酒場。

一般的に「おじさんが集まるところ」といった古いイメージを持たれがちなスナックですが、近年は若い世代が運営するスナックが増え、リバイバルムードが高まっています。

いま、スナックにどんな変化が起きているでしょうか? ニュースナックブームの先駆けである『ハイパースナックサザナミ』の店主、SAZANAMI氏にお話を伺ってきました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

DJ BARをやめて、なぜいまスナックなのか?

東京・銀座は、高級デパートやブティック、老舗料亭、クラブ、バーなどが数多く立ち並ぶ日本有数の繁華街。昼は国内外の買い物客で賑わい、夜は政財界の要人も密やかに足を運びます。

そんな銀座の南端、銀座8丁目の地下に『ハイパースナックサザナミギンザ』はあります。

煌びやかなファサードに身を包んだビルが林立する銀座。夕方の17時に『ハイパースナックサザナミギンザ』を訪れると、開店前の店内に、しなやかな手つきでグラスを磨く1人の男性の姿がありました。

「こんばんは。どうぞおかけください」

笑顔で迎えてくれたのは、オーナーのSAZANAMI氏。まるで旧友と再会したかのように表情を崩すそのフレンドリーな雰囲気に緊張が解けます。

ソファに腰を下ろし、まずは、気になっていた『ハイパースナックサザナミ』という店名の由来について聞いてみました。

SAZANAMI:ネーミングで差別化したかったんです。一説によるとスナックは、日本全国で約10万店あるそうですから。

最初に考えていたのは「スーパースナック」。でもスーパースナックという名前のお店はすでに存在していて、スーパーのさらに上の言葉を探した結果、「ハイパー」に落ち着きました。

ちなみに「サザナミ」は、私が以前経営していたDJ BAR、『BAR SAZANAMI』から取りました。

DJとして1990年代に賑わいを見せた東京のクラブシーンを支えていたSAZANAMI氏が、DJ BARムーブメントの先駆けとなった『BAR SAZANAMI』を東京・渋谷にオープンしたのは2006年のこと。そのDJ BARを閉じ、新たにスナックをはじめたきっかけは何だったのでしょうか。

SAZANAMI:26歳ではじめた『BAR SAZANAMI』では、2006年から約10年間、DJパーティーを主体に経営を行っていました。でも10年経って36歳になり、常連さんも10歳年をとった。

そんなとき、1990年代からクラブで一緒に遊んでいた先輩から、「クラブシーンがつまらなくなった。そろそろ新しい場所づくりが必要だと思う」と提案を受け、「スナックがおもしろそう」とひらめいたのがきっかけです。

SAZANAMI:最初は直感だったのですが、思考を巡らせていくと、少しずつわかってきたんです。スナックには普遍的な魅力があると。知らない人同士が交流できる場所、その街のローカルな情報が行き交う場所、落ち着いてお酒が飲めるアットホームな場所。

1960年代に誕生したと言われるスナックの役割は、昔もいまも変わりません。会話を求めて集まる人たちの拠点として、重要な役割を担っていると思います。

また、時代が変わり、DJパーティーとは異なる新しい空間が望まれているのも肌で感じていました。そういう時代の流れにも背中を押されるかたちで、2016年に『BAR SAZANAMI』を、現在の渋谷店にあたる『ハイパースナックサザナミシブヤ』へとリニューアルしたんです。

「生身の人間がリアルに交流する価値が見直されている」

SAZANAMI氏が「アリ」と直感したスナックの、一番の魅力はどこにあるのか尋ねてみたところ、「生身の人間ですよ」とのこと。

インターネット上で交わされるバーチャルコミュニケーションの対極にある、リアルコミュニケーションの場がスナック。ママやスタッフ、常連のお客様など「生身の人間」に会うために人はスナックを訪れ、出会い、交流するのだとSAZANAMI氏は言う。

SAZANAMI:インターネット上に新しい世界が構築され、そこで人と人とが出会うことがここ10年ほどで当たり前になりました。しかし10年経ってみて、生身の人間同士がリアルな空間で交流する、その価値が見直されはじめていると思うんですよね。

自宅と職場に加えてもうひとつ、行きつけや常連になれるようなお店を持とうという意味の「サードプレイス」という言葉を最近よく耳にしますが、正確には、「フォースプレイス」だと思うんです。

自宅、職場、インターネットやSNS。それらに疲れたときに立ち寄れる4番目の場所。スナックはそんなフォースプレイスになり得る場所であって、『ハイパースナックサザナミ』でも、現代人の「避難所」となるような空間づくりやサービスを目指しています。

「おもしろい場所にはおもしろい人が集まり、おもしろい未来がつくられていく」

SAZANAMI氏によれば、近年、若い世代が経営するコンセプチュアルなスナックが増え、「ニュースナック」と呼ばれているのだそう。従来のスナックと比べて、どんな新しさがあるのでしょうか。

SAZANAMI:2015年ごろから若い世代がスナック経営をはじめる流れが生まれてきたと思います。

1960年代の第1次スナックブームから続いていたお店が、経営者の年齢や諸般の事情で閉店せざるを得なくなり、そのタイミングと、若い世代がスナックに再注目する時期が重なったことで、「ニュースナック」と呼ばれるお店が増えました。

また、著名な実業家や企業の社長、芸能人などが、自らのお気に入りのお店としてスナックに注目しはじめたのも2015年ごろだと思います。

「ニュースナック」の良さは、何といっても若さと勢い、そして新しい発想です。従来のスナックにはないコネクションの広げ方という意味では、人脈やそれをつなぐフレッシュな縁も興味深いですね。おもしろい場所にはおもしろい人が集まり、おもしろい化学反応が起こり、おもしろい未来がつくられていくはずですから。

サザナミのコンセプトは、「店内のお客さまに自由に話しかけてOK」

クラブよりも落ち着いて話せて、従来のスナックよりもお客さん同士の距離が近く、勢いがある。そんなポジショニングがいまの時代にマッチしているとのことですが、『ハイパースナックサザナミ』にもまた、明確なコンセプトがあるようです。

SAZANAMI:『ハイパースナックサザナミ』のコンセプトは、「店内のお客さまに自由に話しかけてOK」ということです。

チェーン店の居酒屋やレストランでは、隣のテーブルの人に話しかけたりしませんよね。でも、『ハイパースナックサザナミ』は話しかけてOK。むしろ積極的にコミュニケーションしてくださいとお伝えしています。

もちろんリアルコミュニケーションの場なので、うまくバランスを取りつつ、お互いが不快に感じないコミュニケーションを推奨しています。

人って、生まれてから死ぬまで色んな人と出会って、その出会いによっていろいろな可能性が広がっていくじゃないですか。『ハイパースナックサザナミ』はそういう人と人との出会いを提供する場でありたい。だから単にお酒を提供して会話するだけではなく、お客さまとお客さまをつなげるのも私たちの役割だと思っています。

『BAR SAZANAMI』の頃には出会えなかったようなお客さまと、『BAR SAZANAMI』からの音楽好きの常連客が入り混じる『ハイパースナックサザナミ』は、まさに「混沌」。その混沌のなかから出会いやクリエイションなど、なにかが生まれていくのです。

『ハイパースナックサザナミギンザ』の店内は、カウンター10席に5人掛けソファが1つと、決して広いわけではありません。ひとりで黙って飲みたい人には向かないかもしれませんが、好奇心を持ち、新しい人・コトに出会いたい、情報を得たい人にはピッタリ。そこにはサムシングニューが満ち溢れています。

SAZANAMI:ほとんどのお客さまが、私やほかのお客さまとのコミュニケーションを目的としていらっしゃいますね。以前、経営者のお客さまがたまたま3人、カウンターに並んだことがありました。いずれも初対面だったのですが、それぞれがそれぞれの悩みに対してアドバイスし合っているんです。

おもしろいシーンでしたね。その日、その時間、その場所、その空気、その人だからこそ、生まれたことで、スナックやっててよかったなって思いました

サザナミが出会いの場を提供してくれたということで、その3人の経営者の方々にも感謝されて、後日シャンパン開けてくれましたし(笑)。

偶発的に「人」が「出会う」ことで生まれる混沌。『ハイパースナックサザナミ』の混沌の先に待っているのは、昨日とは少し違う色彩を持った、新しい「人生」なのかもしれません。

「あえて銀座という閉鎖的な街に、新しいスナックを持ち込みたかった」

おもしろい、と思ったことにはどんどんチャレンジしていくのがSAZANAMI氏のスタイルですが、いま、銀座という街に対して思うことがあるそうです。

SAZANAMI:渋谷は外国人観光客が多く集まる街ということもあり、『ハイパースナックサザナミシブヤ』にも、海外からのお客さまはたくさんいらしていただいています。音楽好きの方を中心に、週末は必ず1組は来ていただいていますね。

反面、銀座という街は良くも悪くも、格式が高いという体質が残っていて、外国の人を受け付けない、日本語が話せない客は入店NG、なんていう店も珍しくありません。

『ハイパースナックサザナミギンザ』に来ていただいたスペイン人のお客さまも嘆いていました。銀座は閉鎖的で、クローズマインドはバッドイメージ。それが日本を代表する歓楽街というのはナンセンスだと。

ただSAZANAMI氏は、銀座の街に古い一面があることはわかったうで、あえてお店を構えたと言います。

SAZANAMI:銀座という街に「ニュースナック」という新しい提案を持ち込んだら、若い人や海外の人がもっとこの街に入ってくると思ったんです。

縁を大切にするところなど、銀座のいい部分は残しつつ、あらゆる人と自由にコミュニケーションして人と人との出会いを提供する新しい業態のお店をやっていこうと。起爆剤というか、銀座のちょっとしたスパイスになれたらと思っています。

「新しい時代にマッチしたことに挑戦していきたい」

最後に、『ハイパースナックサザナミ』の今後や、スナックがこの先どのように変化していくのかを尋ねてみました。

SAZANAMI:従来型の古典的なスナックは、オーナーの年齢などを考えても徐々に減っていくでしょう。その空いたスペースに新しい、若い世代が入ってくる。彼らが何をやるのかまでは想像できません。

私たちと同じようにコンセプトを持ったニューウェーブ系のスナックをやるかもしれないし、一周回って古典的でクラシックなスナックを再興していくのかもしれない。いずれにせよ、若い世代が自分たちの感覚でスナックを解釈し、リニューアルしたらおもしろいことになるのではないでしょうか。

SAZANAMI:もちろん、私自身も新しいことにどんどんチャレンジしていきたいです。海外への店舗展開もおもしろそうだと思っていて。

それからもうひとつ、スマートフォンやパソコンを一切持ち込めない、デジタルデトックスのクラブというのもおもしろそうだなと。

デジタルによって便利さを手に入れたのと引き換えに、没入して楽しむ機会が少なくなったと思っていて。純粋に音楽を楽しむのもいいし、頑張って女の子に声をかけるのもいい。ひとつのことに没頭できる遊びスペースを提供していけたらと、目下、構想を練っているところです。

ハイパースナックサザナミギンザ
住所:東京都中央区銀座8丁目5-19 園枝ビルB1F
営業日:月曜~金曜
営業時間:OPEN 19:00 / CLOSE MIDNIGHT
定休日:土曜、日曜、祝日
電話番号:03-3289-5250


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