台湾の美食作家・Hally Chen(ハリー・チェン)がオススメする、台北の老舗喫茶店 その1

台湾の美食ならこの人! と台湾の人々に信頼されるハリー・チェンさん。台湾の古き良き「かき氷店」や「喫茶店」についての著書があり、本業はグラフィックデザイナーでもあるハリーさんは、味も佇まいも良い店を見つける達人。今回は、そんなハリーさんによる台北の老舗喫茶店の紹介です。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

もし、街のカフェが末永くお客さんに愛されたいとしたら、ただコーヒーを美味しく淹れるだけではいけません。パリのカフェに美味しいクロワッサンがあり、東京の喫茶店には美味しいナポリタンがあるように、台北の老舗喫茶店にも昔から人々に愛される、台湾らしいメニューがある。これらは単なるお店の看板メニューや常連のお気に入りということではなく、その都市に住む人々の日常風景をつくっている、ということでもあるのです。台湾人の暮らしと街に根づいた古い喫茶店で食事をして、一杯のコーヒーを片手に、ガイドブックには載っていない「裏・台北」を味わってみてください。

蜜蜂咖啡 農安店(ハチカーフェイ ノウアンテン)

私は一年ほど前に、台湾の昔ながらの喫茶店を紹介した著書『人情咖啡店」を出版しました。その本の取材をしていた頃に、ちょうど大好きだった喫茶店『蜜蜂咖啡』が30年間の営業に終止符を打ち、紹介できなかったことが心残りの一つになっていたのです。『蜜蜂咖啡』の風景は私の生活と記憶に深く刻まれていて、二度とこのような素晴らしい喫茶店に出会うことはないだろうと悲しんでいた矢先、店主を変えて営業を再開したことを知りました。

現・店主の林怡呈(リン・イーチォン)さんは、バリスタとして20年近い経験を持ち、この『蜜蜂咖啡』が入っている建物のオーナーでもあります。アメリカで育った林さんは、台湾に戻ってお茶を学び、いつしかコーヒーにのめり込みました。

『蜜蜂咖啡』はこれまで、常連によって時間をかけて作られた店です。林さんが前オーナーよりお店を受け継いで内装をリフォームしようとした時、その噂を聞いた常連客は猛反対したと言います。新旧の良さを大切にしながら、林さんは自分のお店を作り上げています。

まず、『蜜蜂咖啡』の経営を引き継いだ林さんは、90年代に彼が経営していたカフェをコーヒー豆の焙煎所にして、コーヒーの味を向上させました。今は、厳選した4種類の豆で淹れたブレンドコーヒーや国宝級ブルーマウンテンなど、数多くのコーヒーを提供しています。

林さんこだわりのコーヒーはもちろん、ランチメニューも人気です。今では、「故郷を離れていて、“おふくろの味”が恋しくなった時は、いつもここの“魚弁当”を食べにくる」という常連客もいるほど。いつのまにか、この「魚弁当」という呼び方が広まって、『蜜蜂咖啡』は今や、「魚弁当」という愛称で呼ばれるようになりました。

毎日魚屋さんから新鮮な魚を仕入れて、それを熟練のシェフが香ばしく焼き、台湾人が一番好きな味に調理します。常連客はほぼ必ずといっていいほど、この「魚弁当」を注文するため売切れ必至。どうしても「魚弁当」を味わいたい常連客は、前もって電話で予約するそうです。

蜜蜂咖啡 農安店(ハチカーフェイ ノウアンテン)
住所:台北市中山區農安街49號
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜日
最寄り駅:中山國小駅3番出口より徒歩5分
TEL:02-2599-2378

上上咖啡(シャンシャンカーフェイ)

中山堂正門広場の横にある『上上咖啡』。このお店を知ったのは、1985年に中山堂で『最想念的季節(My Favorite Season)』という映画を観たときでした。当時私は中学生で、まだコーヒーに興味はなかったものの、その店名は私の記憶に深く刻まれました。

中山堂の前身は台北公会堂、日本統治時代に建築家の井手薫が手掛けた建物です。長い歴史を持つこの美しい建物は、戦後は海外からの来客をもてなす場になりました。現在は平日に見学可能で、時には文化イベントの開催もあります。

数年前、仕事で出版業界に関わるようになり、編集者たちに連れられてきたのがこの『上上咖啡』でした。私はいつも店の二階の窓側の席に座って喋りながら食事をし、その後はコーヒーを飲みながら仕事の話をします。ここは、食事と打ち合わせの両方ができる、一石二鳥のお店なんです。

1978年創業の老舗コーヒー店『上上咖啡』の元店主は、創業後数年で海外に移住し、そのお店を現店主の余麗蘋(ユーリーピン)さんが引き継ぎました。 余さんにとって、当時出資してくれたお義母さんが、自分をコーヒーの世界に導いてくれた恩人。嫁いだばかりのコーヒー一杯5元の時代から、いつもお義母さんが西門町にコーヒーを飲みに連れていってくれました。現在90歳のお義母さんは、今でもコーヒーを2杯飲むのが日課なんだとか。

『上上咖啡』の周辺、西門町は有名な生地屋が集中する激戦区。以前はアパレル産業がまだ発達していなかったため、高級な生地を買ってオーダーメイドの服を仕立てていた人が多くいました。女性たちは高級な生地を買い、その後ここに寄り道していたそうです。

『上上咖啡』のフードメニューで最も有名なのは「俄式羅宋湯(ボルシチ)」。40年前の少し酸っぱめの味を元に、改良を続けています。牛骨でスープを取り、牛腩(牛のテンダーロイン)、キャベツ、にんじん、じゃがいもを加えて弱火で数時間煮込みます。

そのほかに、「什錦鍋(五目鍋)」と「牛雜鍋(もつ鍋)」も人気メニュー。最近は、台湾でお馴染みの補血や滋養強壮効果がある薬膳スープ「四神薏仁排骨湯」が、近くに勤める女性に人気があります。鍋やボルシチは、パンかライスとセットにできて、パンは、ガーリックかバタートーストを選べます。

食後はホットコーヒーをはじめ、コーヒー氷を入れたアイスコーヒーも人気。個人的には「上上アイスコーヒー」をシロップ半分(半糖)にしてクリームを足し、創業当時から使われているロシアのコーヒーカップで飲むのが一番のお気に入りです。

上上咖啡(シャンシャンカーフェイ)
住所:
臺北市中正區延平南路95號
営業時間:平日8:00~21:00 / 土日9:00~18:00
定休日:なし
最寄り駅:西門駅4番出口より徒歩5分
TEL:02-2314-0064
プロフィール
Hally Chen (ハリー・チェン)

台北生まれのグラフィックデザイナーで、美食本の著者。長年CDのデザインを手がけていて、その作品は台湾のグラミー賞とも呼ばれている金曲奨やIMA音楽賞にノミネートされたことも。2008年より多くの雑誌でコラムを持つようになり、デザインと絵(デザイナー)、カメラとペン(著者)の二つの観点から日常生活を観察する。著書に「遙遠的冰果室」、「人情咖啡店」がある。



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