Future Funkでソウルから世界へ。Night Tempoインタビュー

2012年頃からYouTubeやSoundCloudを中心に、世界中で流行してきた「Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)」、そこから派生した「Future Funk(フューチャーファンク)」という音楽ジャンルをご存知だろうか? 1970〜1980年代の日本のCity Pop(シティ・ポップ)と呼ばれる音楽や、アニメやテレビCM、さらにはショッピングモールの店内BGMなどを脈略なくサンプリングし、匿名性の高いアーティストたちによってインターネット上にアップされる「Vaporwave」、そして「Future Funk」の曲たち。

ソウルから世界に向けて、Future Funkを発信しているアーティスト、Night Tempo(ナイトテンポ)もそのムーブメントの中心にいる一人。2016年に彼がリミックスした竹内まりやの『Plastic Love』は、YouTubeで850万回再生(2019年6月時点)を記録している。

現在Night Tempoは、「Sailor Team(セイラーチーム)」という、インターネット上で出会ったクルーと世界各地で音楽イベントを開催。『FUJI ROCK FESTIVAL '19』への出演も決定したNight Tempoに独占インタビューを行った。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

再生回数850万回を記録する、竹内まりや『Plastic Love』のリミックス

ー「Night Tempo」って不思議な名前ですね。つくられている音楽とすごく合っている感じがします。

Night Tempo:ありがとうございます。2015年頃、本格的に音楽活動をするにあたって自分で名付けました。いつも夜中に曲づくりをしているのですが、そもそも夜聴くのに合う音楽をつくりたいと思っていて。

ーいまでは世界中をツアーされていますが、多くの人々に知られるきっかけになったのは、なにが一番大きかったですか。

Night Tempo:2016年に、竹内まりやの『Plastic Love』(1984年)のリミックスをYouTubeにアップしたのが大きかったと思います。

ネットからの反響もすごかったですが、これをきっかけに「Macross 82-99」というメキシコのFuture Funkのアーティストとも知り合ってコラボレーションするようになったり。

ーNight Tempoの音楽は「Future Funk」というジャンルにカテゴライズされますが、本人はどのように認識されていますか?

Night Tempo:Future Funkには、3つの世代があると思っています。第1世代はVaporwaveに近くて、サンプリングを駆使するイメージ。第2世代はポップでダンサブルな感じ。Daftpunkみたいな音といえばいいでしょうか。

第3世代はオタクカルチャーからの影響が大きくて、アニメのセリフや楽曲をサンプリングしたり。私は第1世代と第2世代の中間の1.5世代くらいかな? と思っています。

ーNight Tempoさん自身は、Vaporwaveからどんな影響を受けましたか?

Night Tempo:既存の音楽をサンプリングして、遅くしたり、ねじ曲げたり、自由に加工してユニークな表現をするところですね。そこに風刺的なメッセージを込めるのがVaporwaveの特徴ですが、Future Funkはもう少しポップな感じで。

ー韓国を活動拠点にしながら、アメリカ、日本、台湾から人気が高まったのもユニークに感じます。

Night Tempo:Future Funkがいち早く流行ったのがロサンゼルスなんですよ。もともと欧米の一部の音楽ファンの間では、日本の1970〜1980年代のCity Popがブームになっていて。彼らにとってCity Popは、別の文化で生まれた「まったく新しい音楽」に聴こえるそうなんです。

その下地があったから、City PopをサンプリングしたFuture Funkもすぐ受け入れられた。そのムーブメントが日本や台湾などの東アジアに逆輸入されたんだと思います。

レトロなカルチャーをただサンプリングするのではなく、いま風に翻訳し直している

ーもともとNight Tempoさんは、自身が韓国人だということを打ち出していなかったそうですね。

Night Tempo:そうですね。インターネットカルチャーをベースに活動していたので、特に国籍は公表していませんでした。メディアで取り上げられた際に、韓国人ということが自然と知れ渡ったというか。

ー『Plastic Love』のような日本のCity Popを再解釈した作品を、韓国のアーティストが発表するというのも面白いポイントだと思います。

Night Tempo:韓国で暮らしていると日本のカルチャーの影響を受けるので、日本人が感じるのと同じように、韓国人もCity Popにはレトロな印象を抱くんです。

でも面白いことに、欧米の日本オタクの人たちは、私が韓国人ということを特に気にしていないようです。もともとVaporwaveやFuture Funkの音楽では、日本のカルチャーをサンプリングすることが多いですしね。

ーPVやアートワークでも、1980〜1990年代の日本のカルチャーを意識していますが、これらはどのようにつくっているのですか?

Night Tempo:基本的にすべてセルフプロデュースなので、自分でコンセプトを固めて、デザイナーを探したり、自分でつくったりしています。ライブに使うアイテムまで、自分自身でセレクトしていますね。

ただレトロなカルチャーをサンプリングして使うのではなく、いま風に翻訳し直しているという感覚です。

ー今年発表された日本のアイドルグループ、Wink(1988〜1996年)をリエディットした『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ - EP』は、まさにレトロなカルチャーを現代に翻訳した好例ですね。

Night Tempo:日本の音楽出版社の担当者から「何か一緒にやろう」と連絡をいただいて、今年のはじめに打ち合わせをしたのですが、そこで「日本のアイドルをリミックスしてみよう」という話になりました。

その担当者がピックアップしてくれたアイドルのなかにWinkが入っていたのですが、ちょうど2018年が「Wink活動30周年」ということもあって、タイミングがよかったのだと思います。

ネットで出会ったアーティスト9人による「Sailor Team」で、世界ツアーへ

ーNight Tempoさんと日本のカルチャーといえば、『美少女戦士セーラームーン』も大好きだそうですね。インターネット上で出会ったアーティストたちと「Sailor Team」というチームを結成して、世界各地で音楽イベントを開催していると聞きました。

Night Tempo:「Sailor Team」は、もともと私とMacross 82-99の2人でつくったチームなんです。2人とも『美少女戦士セーラームーン』が好きというのもありつつ、「世界を一緒に旅しながら、Sailing(帆走=インターネットの海から出航)しよう」という意味を込めて名付けました。メンバー全員がインターネットで出会った友人でしたからね。

ー「Sailor Team」には、どんなメンバーが参加しているのですか?

Night Tempo:9人のメンバーがいて、Macross 82-99(メキシコ)、Desired(ロシア)、Aritus(アメリカ)、Nanidato(アメリカ)、Daviouxx(香港。Neon City Recordsというレーベルを運営)、Vantage(フランス)、Android52(ドイツ)、Tanuki (イギリス)と、非常に多国籍なチームなんです。

常に全員が参加しているわけではないのですが、私とMacross 82-99を中心として海外ツアーを行なっています。

ーインターネット発のクルーとして、世界中のメンバーと交流しながら活動しているのが興味深いです。

Night Tempo:ネットで知り合った友人と実際に会って、みんなで真剣に音楽に取り組んで。自分でもたまに不思議に思うときがありますが、そういう部分も含めてインターネットカルチャーの面白いところなんだと思います。

『FUJI ROCK FESTIVAL '19』にも出演。レトロな文化をいまの時代に広げたい

ー世界中をツアーされていると、故郷のソウルを見る視点も変わってくるかと思います。いまのソウルを見て感じる部分はありますか?

Night Tempo:実際のところあまり深く考えたことはないのですが、韓国でもCity Popブームが巻き起こったのは不思議に感じました。日本のカルチャー好きなオタク層だけでなく、一般的な若者たちにまでCity Popが浸透しているんですから。これまであまりなかったユニークな動きだと思います。

ーいまのソウルで面白いと感じていることはありますか?

Night Tempo:古い建物をリノベーションしたお店などが好きなんですが、最近ソウルではそういった建物が増えているのでうれしく思います。

ソウルではいま、音楽や建築だけでなく、ファッションや他の分野でも「レトロ」が注目されて、懐かしい感覚と新しい感覚をミックスした「ニュートロ」というムーブメントが生まれているんです。

City Popのイベントにもたくさんのお客さんが来ていて、あちこちでCity Popの専門家や、City Pop Loungeといったお店が生まれている。

ただ、短期的なムーブメントとして消費されて終わらなければいいですね。ずっとこの文化を育てながら多くの人々に伝達してくれたらいいなと思っています。少なくとも専門家だとか専門店を名乗って活動するのであれば、それだけの責任感を持たなければならないというか。

ー7月には『FUJI ROCK FESTIVAL '19』の出演も決定するなど、目まぐるしく活躍されていますが、今後の予定を教えてください。

Night Tempo:今回のWinkのアルバムの次に、7月には杏里さんの曲をオフィシャルでリエディットした作品『杏里 - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』がリリースします。

私自身としては、今後も1970〜90年代前半のカルチャーを現代に昇華して、ムーブメントをつくりながらも、決して一時的に消費しないような文化をつくっていたいと思いますね。

Night Tempo

シティ・ポップと呼ばれる80年代の日本の昭和歌謡や和モノ・ディスコ・チューンを再構築してフューチャー・ファンクというジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。2018年にオリジナル・アルバム「Moonrise」とミックス・テープ「Nighty Tape 86’」をリリース。主に米国と日本を中心に活動。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティー・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。昭和のアーティストのカセットテープ・コレクターとしても知られている。2019年7月24日には、オフィシャル・リエディット企画「杏里 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ」を配信。また2019年のフジロックに出演など、今後の活躍にますます目が離せないアーティストの一人。


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