「読書」という体験は、単なる情報のインプットだけではありません。指先に触れる紙の質感、ページをめくるリズム、そしてそこに流れる静かな時間。それらすべてが含まれてこそ、豊かな読書体験と言えるのかもしれません。

SNSに流れてくる美しい写真は、ほんの数秒でスクロールされて消えてしまいます。けれど、紙に印刷されたイメージは、言葉とともに心に留まり、じっくりと味わうことができて、不思議と心を穏やかにしてくれます。同じページを何度読み返しても、決して飽きることがないのです。

今回は、デジタル全盛の時代にあえて「紙」という形にこだわり続ける、韓国のインディペンデント誌5冊をセレクトしました。これらの雑誌が提案する視点は、自分のライフスタイルを再発見し、世界の見方を変えるきっかけをくれるかもしれないです。

text & photo by 謝喬伃.editor 張容甄(HereNow編集部)


《Design Magazine CA》

“Good Design Inspiration Guide”

『CA Magazine』は、世界のデザインシーンを俯瞰できる窓のような存在です。イギリスで創刊されたのち韓国に上陸し、現在は韓国独自のローカルな視点を織り交ぜた誌面作りを行っています。1998年の創刊以来、彼らが一貫して追求しているのは、人、モノ、自然の本質的な価値。日々刻々と変化する日常に目を向け、そこから生まれるクリエイティブな作品(Creative Artworks)を独自の切り口で紹介しています。

デザイナーの思考プロセスを記録し、デザインが持つ価値や可能性を掘り下げる内容は、読者に深い美学とインスピレーションを与えてくれます。こうした理念をベースに、書籍や雑誌の出版、さらにはビジュアルアートにまつわる講座の企画などを通じて、私たちが生きる世界をより深く知るための試みを続けています。

韓国の大型書店「教保文庫(キョボムンゴ)」の雑誌コーナーへ行くと、まず目を引くのがこの『CA Magazine』の表紙です。シンプルで洗練されたデザインは、多くの雑誌の中でも際立った存在感を放っています。「日常の中の優れたデザインを記録する」という理念通り、特集の切り口もユニーク。例えば第259号の「WORK EAT DRINK」では、食からインスピレーションを得るデザイナーへのインタビューから、フードデザイン、さらには空間デザインまでを網羅。また第269号の「Small World —— Typography Archive」では、切手やクレジットカード、服のタグに記された製造年月日など、普段は見過ごしがちな「小さなデザイン」に光を当て、まるで虫眼鏡で覗くようなワクワク感を届けてくれました。

刊行形態: 隔月刊
出版: CA BOOKS
公式サイト:https://www.cabooks.co.kr/
Instagram: https://www.instagram.com/ca.books/?hl=ko


《hep. Magazine》

“Our Past and Present in Film Photography”

『hep.』は、誌面のすべてがフィルム写真で構成されている雑誌です。毎号ひとつの「曲」をテーマに掲げ、歌詞やアーティスト、当時の時代背景からインスピレーションを得て、関連する人物や場所、文化を紹介していきます。さらに、国内外のフィルム写真愛好家たちによる日常の記録も収録されており、一冊がまるで美しいアーカイブのよう。

デザインスタジオ「Polarworks Art Co. (PWAC)」が手掛けるこの雑誌は、ページを180度パタンと開ける「コデックス装(裸背線装)」を採用しており、写真の細部までじっくりと鑑賞できる作りになっています。

驚くべきは、作品だけでなくインタビューカットまでもがすべてフィルムで撮影されていること。編集長はこう語ります。 「フィルムは、撮影から現像まで予期せぬ変数が多く、不確実性に満ちています。デジタルに比べればコストも手間もかかります。けれど、フィルム特有の質感と色彩が詰まった一冊が完成したとき、それまでの苦労はすべて達成感に変わるのです。私にとってフィルムは、デジタルよりも『人の温もり』を感じさせてくれるもの。その人間味こそが、私がフィルムを愛してやまない理由です」。

https://www.hep.kr/archive
毎号、発売前には公式ティーザー動画を公開。

第4号のテーマは「Take On Me」。1982年にリリースされたノルウェーのバンド、a-haのヒット曲から。

刊行形態: 不定期刊
出版: POLAR WORKS ART CO. (PWAC)
公式サイト: https://www.hep.kr/
Instagram: https://www.instagram.com/hep.magazine/


《BGM Magazine》

“All the Great Music is Here!”

アーティストの「Standing Egg」とPolarworks Art Co. (PWAC)が共同で立ち上げた『BGM Magazine』。音楽とライフスタイルを軸に、創刊号の「Day Off」、第2号の「Sleepless」、最新号の「Wake Up」など、「日常の中で音楽を必要とする瞬間」をテーマに、人々の物語と音楽を綴っています。

各コンテンツには専用のプレイリストやおすすめのアルバムが添えられており、記事の最後にあるQRコードを読み込めば、そのままYouTubeで楽曲を聴くことができます。まさに「読む」と「聴く」がシームレスに繋がる体験。編集に関わったStanding Eggは、この雑誌を「ミックステープ」に例えています。友人のために好きな曲を選び、雰囲気に合わせて曲順を決め、タイトルを付けてプレゼントします。そんな親密な空気が、誌面全体から漂ってきます。

YouTubeを開けば、アルゴリズムが無料で音楽を勧めてくれる今の時代に、なぜあえて「プレイリスト」を紙で買うのか。それは、便利さと引き換えに固定化されがちな自分の好みを飛び越え、音楽を通じて新しい自分や、新しい感性に出会うためなのかもしれません。

編集部が毎週更新するプレイリスト「LETTERS」。

刊行形態: 不定期刊
出版: POLAR WORKS ART CO. (PWAC)
公式サイト: https://www.magazinebgm.kr/
Instagram:https://www.instagram.com/bgm.magazine/


《Magazine TOOLS》

“Narrative of Things”

毎号ひとつの「道具」にスポットを当て、その本質と背景にあるストーリーを深く掘り下げる雑誌です。歴史的ルーツ、インタビュー、ブランド解析、アートの視点など、多角的なナラティブを通じて、ありふれた、けれど大切な「モノ」の価値を再発見させてくれます。

貢献度、美しさ、不可欠性、機能性はテーマ選びには4つの基準です。2021年の創刊号で選ばれたのは、パンデミック禍で改めてその重要性が認識された「石鹸」。第2号では「スプーン」をテーマに、食文化の核心に迫りました。起源や変遷、東洋と西洋での使われ方の違い、さらには、食文化における象徴的な意味にまで深く切り込んでいます。そしてクリエイターたちが語るスプーンとの日常まで。

発行元はEC企業「BLANK CORPORATION」で、プロの編集チーム「Rawpress」とタッグを組んでいます。情報が瞬時に消費されていくデジタル全盛の今だからこそ、じっくりと時間をかけて味わい、手元に残しておきたくなるようなフィジカルな媒体を、そんな想いが込められた誌面は、デザインのディテールに至るまでこだわり抜かれ、毎号がコレクターズアイテムのような佇まいを見せています。出版元のBLANKは、こうした活動を通じて読者とのより深い絆を築き、日常の道具を新たな視点で見つめ直すことで、ブランドやプロダクトに込められた意味を鮮やかに広げようとしているのです。

刊行形態: 不定期刊
出版: blank Corp.
公式サイト: https://toolsmag.kr/
Instagram:https://www.instagram.com/magazine.tools/


《MATTER magazine》

“The view from materials, through creative images and stories”

韓国のセレクトショップで創刊号の展示を見かけ、その強烈なビジュアルに惹かれて思わず手に取った一冊。多くの人にとって「素材(マテリアル)」は、専門的で少し硬いイメージがあるかもしれません。しかし『MATTER magazine』はその固定観念を鮮やかに覆します。

歴史や特性、加工技術といった「お勉強」のような知識を詰め込むことが、彼らの目的ではなく、むしろ「素材」というフィルターを通すことで、私たちの暮らしの断片や、世界の知られざる側面を鮮やかに浮き彫りにすることを目指しています。制作を担うのはデザイナーや編集者、マーケターといったクリエイターたち、生活者であり企画者でもある彼らの等身大な視点が、難解になりがちな素材の物語を、誰もが楽しめる親しみやすく美しいコンテンツへと昇華させているのです。

創刊号のテーマは、20世紀最大の発明であり、現在は環境問題の焦点でもある「プラスチック」、最新号では、飲料缶から宇宙工学までを支える「アルミニウム」を特集、どれも日常にありふれた素材ですが、この雑誌を読んだ後は、自分と世界の関わり方を少しだけ見直したくなるはずです。

刊行形態: 不定期刊
出版: M.0
Instagram: https://www.instagram.com/matter_magazine_official/

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