熊本県人、台湾中毒者。台湾が好きすぎて、2014年に台湾移住。8年の台北生活後、2匹の犬と共に最も好きな都市、高雄に引っ越す。生活の中で出会う様々な不思議なものを日々探索している。

何年台湾に住んでいても、高雄にいると、台湾の可愛さに驚かされることが多い。もしかしたら、台湾現地の方々が見落としがちな視点、習慣となってしまっている文化が私に驚きを与えているのかもしれない。ここでは、日本からの移住者の視点から、様々なヘンテコで可愛い高雄を掘り起こしていこうと思う。

文.撮影:吉本梨惠


2023年、台湾観光局は俳優の川口春奈を起用し、「ビビビビ!台湾」というプロモーションを打ち出した。

キャッチーなフレーズとポップなイメージは、台湾に注目していた日本人の間で瞬く間に浸透し、認知度向上に大きく寄与した。パンデミックが収束し、世界が再び動き出した時期ということもあり、「最初の海外旅行先」として台湾が選ばれる絶好の追い風となったのである。

CM動画は、川口春奈が友人と各地を巡り、旅を全力で楽しむ姿を描いている。台北、台中と並んで高雄も登場するが、そこで付けられたハッシュタグは「#アートな散歩道篇」であった。

正直なところ、台湾在住歴の長い筆者の頭には、小さな疑問符が浮かんだ。当時の日本において、「高雄=アート都市」というイメージが定着しているとは言い難かったからだ。

もちろん、高雄には「駁二芸術特区」をはじめ、「高雄市立美術館」や「ALIEN Art Centre」、さらには民間の文化振興団体など、優れたアートスポットはいくつも存在する。個人的にも、高雄が秘める芸術への情熱は、他の都市に決して引けを取らないものだと感じていた。

しかし、当時の日本人が抱く高雄のイメージといえば、美麗島駅、85ビル、そして龍虎塔といった「王道の観光地」が中心。大手ガイドブックを開いても、需要の多い台北が紙面の大部分を占め、高雄コーナーはわずか2ページ程度。リピーターを除けば、高雄を旅行の第一候補に挙げる日本人はまだ少数派だったのである。

だが、ここ数年の劇的な都市発展と戦略的なPR活動は、その構図を鮮やかに塗り替えた。現在では「ビビビビ!台湾」のハッシュタグが示す通り、高雄は「台湾のアート都市」として確固たる地位を築きつつある。

本稿では、アート都市・高雄の発展を陰で支え続けてきた、各地に点在するアートスペースにスポットライトを当てる。定番の観光ルートから一歩踏み出し、この街が持つ独特で奥行きのある芸術の世界を案内したい。

駁二の公共アート

1. 正白#FFFFFF(塩埕)

まず紹介したいのは、アートスポットが密集し注目を集める塩埕エリアの中でも、ひときわ個性が光る空間「正白#FFFFFF」だ。

ここは、「塩埕第一公有零售市場」の風景に溶け込むように佇む、24時間営業の無人アートスペース。最大の特徴は、鑑賞者がガラス越しに作品を眺めるという展示手法にある。

朝、市場で熱々のサバヒー(虱目魚)スープを堪能した後や、夜、市場内のバーで一杯楽しんだ帰り道。ふらりと通りかかれば、そこには日常の喧騒と隣り合わせの芸術が静かに存在している。この、地元の生活動線に溶け込んだ「ゼロ距離」の空気感こそが、このスペースの真骨頂と言えるだろう。

正白#FFFFFF
住所: 高雄市鹽埕區新樂街215
SNS:https://www.instagram.com/ffffff_blank/
展示の特徴: 現代アート(立体作品中心)、24時間開放、市場併設


2. On The Road 影像空間(塩埕)

地下鉄「塩埕埔」駅からほど近いビルの3階。そこには、知る人ぞ知る小さな秘密基地のような空間が広がっている。

ここは、筆者が知る限り高雄で唯一の「写真」に特化した展示スペース。台湾のアマチュアから世界で活躍するプロまで幅広い方々の展示を行っているが、特筆すべきは、日本の写真家とのコラボレーションが頻繁に行われている点である。展示期間中、そこは日台の写真愛好家たちが集い、レンズを通して表現された視点を分かち合う、濃密な交流の場へと姿を変える。

単なるギャラリーに留まらず、フォトスタジオ機能やワークショップも開催されており、まさに写真文化の発信拠点。筆者も塩埕を訪れる際は必ず足を運び、展示作品から新たなインスピレーションを吸収している。

On The Road 影像空間
住所: 高雄市鹽埕區大勇路64號3樓
SNS:https://www.instagram.com/or.imagespace/
展示の特徴: 写真専門の展示スペース、日台交流、ワークショップ


3. 白色記憶芸術空間 Art Space(三民)

新進気鋭の現代アーティストの作品に触れたいのであれば、「白色記憶」は外せない選択肢となる。

決して広い空間ではない。しかし、展示される作品の張力を最大限に引き出すため、作品のテーマごとに空間の表情を徹底的に作り変える。まるで「カメレオン」のように訪れるたびに異なる世界観に包まれる体験は、鑑賞者に新鮮な驚きを与えてくれる。

さらに、このスペースを語る上で欠かせないのが、キュレーターの存在だ。彼女の解説は非常に専門的でありながら、アーティスト自身についてだけでなく、展示作品ごとの背後にある物語を熱意を持って丁寧に紐解いてくれる。その深い対話を通じて、作品への理解はより一層深まっていくはずだ。

白色記憶芸術空間 Art Space
住所: 高雄市三民區遼寧一街358號1樓
SNS:https://www.instagram.com/whitememory_art_space/
展示の特徴: 新鋭現代アート(ジャンルは多岐にわたる)、変幻自在な展示空間


4. N°0 | GALLERY 零号芸術(新興)

美麗島駅近くのバーの地下室にひっそりと隠されたその場所は、深夜(20:00 – 00:00)にのみその扉を開く。夜型人間「夜猫子」にとって、これほど贅沢なアートスペースは他にないだろう。

地下室というアンダーグランド感溢れるこのスペースでは主に若手のイラストレーターやアーティストによる、小規模な個展が開催されている。筆者も何度か足を運んでいるが、そこに並ぶのは粗削りながらも純度の高い個性。作品を通じて、彼らが試行錯誤する制作の息遣いまでもが間近に伝わってくるようだ。

今回紹介する空間の中でも、ここは「アーティストの温度」を最も身近に、そして親密に感じられる場所と言える。深夜の静寂とアルコールの余韻の中で向き合う作品は、昼間とはまた違った表情を見せてくれるはずだ。

N°0 | GALLERY 零号芸術
住所: 高雄市新興區六合一路148號B1
SNS:https://www.instagram.com/n0_gallery/
展示の特徴: 小規模作品、若手イラストレーター、深夜営業


5. MUHE ART 慕何芸術(鳳山)

近年、目覚ましい発展を見せている「黄埔新村」内にも、見逃せないアートスペースが存在する。かつての軍人居住区(眷村)の面影を色濃く残す路地裏に、驚くほど本格的な現代ギャラリーが隠れているのだ。

ここの最大の特徴は、その卓越したキュレーション能力にある。筆者自身、あえて展示内容を調べずに訪れることも多いが、いつ足を運んでも期待を裏切らない、質の高い「驚き」を提供してくれる。

活動スタイルが控えめなため、気づかぬうちに展示期間が終わっていた……ということも少なくないが、それゆえの隠れ家感も魅力。日本人のアーティストが紹介される機会も多く、審美眼の確かな、通のアート愛好家にこそ訪れてほしい場所だ。

MUHE ART 慕何芸術
住所: 鳳山區黃埔新村東五巷118號
SNS: https://www.instagram.com/muheart.k/
展示の特徴: 本格的な現代アート(彫刻・油絵など)、日本人アーティストの展示も多数


「#アートな散歩道」のその先へ。

高雄の変貌は、いまや誰の目にも明らかだ。
かつて筆者の頭に浮かんだ「?」という疑問符は、今では揺るぎない確信へと変わっている。

活気あふれる市場の一角、静寂に包まれた深夜の地下、そして歴史を刻む路地裏ーー。今回紹介した5つの場所は、高雄という街に無数に点在するアートシーンの、ほんの一部に過ぎない。

高雄を真の「アート都市」へと押し上げた原動力は、決してこれら5つの拠点だけではない。紹介しきれなかった多くのギャラリーが各地で表現を磨き続けているのはもちろん、ふと目を向ければ、路上にも溢れんばかりのアートが顔を覗かせている。街角の壁画やユニークなオブジェなど、生活の延長線上に息づく無数の創造性。その一つひとつに宿る切実な情熱の積み重ねこそが、今の高雄を形作る真のエネルギーであることは、疑いようのない事実だ。

そこには、街の成長を自らの表現で彩る、ローカルを愛する人々のまなざしが溢れている。

大型イベントの賑わいを楽しんだ後は、ぜひ一歩、街の奥深くに点在するアートの鼓動を辿ってみてほしい。この記事が、あなたの「高雄アート散歩」を、この街の熱量に触れる特別な旅に変えるきっかけになれば幸いだ。

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