『奇界遺産』佐藤健寿と巡る、台湾のディープな高雄案内 前編

世界の珍奇な建築物や場所を撮影した代表作『奇界遺産』で知られる写真家・佐藤健寿。その独自の着眼点と抜きん出た探究心から発表される作品の数々に、今多くの人が注目するフォトグラファーの1人です。近年では、TV番組「クレイジージャーニー」への出演により、お茶の間にも広く知られる存在に。そんな佐藤健寿さんにとって、台湾は馴染み深い国の1つとして知られ、例えば、台中にあるカラフルな虹の村「彩虹眷村」を日本人に認知させた第一人者とも言われます。今回は、佐藤健寿さんと共に、高雄の奇界スポットを巡ります。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

1.仏教のテーマパーク『佛光山佛陀記念館』

「台湾は何度も来ているんだけど、実は高雄は初めてなんです」

そんな佐藤さんの一言からスタートした今回の高雄巡り。8月某日の高雄は、太陽の光がジリジリと暑く、夕方になると所々に豪雨を伴う空模様。まず、はじめに向かったのは、高雄市内から車で40分ほど離れた、大樹区の緑あふれるのどかな田舎風景の中に突如として現れる巨大な仏教施設、それが台湾の4代仏教のひとつ佛光山の総本山『佛光山佛陀記念館』です。

1967年から星雲大師という指導者のもと、荒山だった土地を切り開いてこのような100ヘクタール(東京ドーム約21個分!)に及ぶ巨大な宗教施設となったそう。以前は総本山の寺のみでしたが、この記念館は2003年に着工され、8年の歳月をかけて、2011年に竣工し一般公開されました。現在、佛光山の信者数は年間300万人を超えているとのこと。取材日も40度近い気温の猛暑日でしたが、国内・海外から数多くの参拝客が訪れていました。

この『佛光山佛陀記念館』の大門をくぐると、8つの寶塔が並んでいます。「文芸化、映画化、人間化、国際化」といったテーマが掲げられ運営されており、それぞれの塔の中で特定のテーマで収集品が展示され、その展示にまつわるグッズが販売されています。

メインの大仏は、土台と合わせて108メートル(36階建てのビルと同じくらい)にもなるそう。静かな山の中に突如現れる大仏に、参拝者みな目を奪われます。大仏の下には本館と呼ばれる施設があり、礼拝空間である「金佛殿」や、ミャンマーの希少な鉱物白玉(石)で造られた「寝仏」の他にも、2000人が収容できる大覚堂(ホール)と美術館が4つもあります。仏教関係以外のイベントもよく行われているとのことでした。

『佛光山佛陀記念館』の面白いところは、外観の仏像などのクラシックな佇まいとは真逆に、施設内の展示には、様々な現代の技術が駆使されているところ。

例えば、ガラスに青いLEDライトのようなもので仏像を投影したり、床には蓮の葉がプロジェクションマッピングされていたり、あまりにも日本の寺社仏閣とかけ離れている展示方法に驚きます。特に映画(映像)に関しては力を入れているのか、4D映画や子供向けのインタラクティブ動画などが上映されていました。

『佛光山佛陀記念館』は、夕暮れになると、塔と仏像が光り出します。幻想的なのですが、どことなく近未来感もあるのが面白いところ。ライトアップは午後7時までなので、時期によっては空が明るすぎて楽しめないのでご注意ください。

またこの『佛光山佛陀記念館』から1キロくらい先には、浄土洞窟という世にも奇界なB級スポットがあるようですが、修復工事のために断念。佐藤さんも楽しみにしていた場所でしたが、今回は訪れることはできませんでした。

ドローンによる『佛光山佛陀記念館』

今回、施設側に特別な許可をとり、ドローン撮影も決行。施設を俯瞰してみるとまた変わった魅力と共に、自然風景の中に突如現れる巨大な大仏の姿が印象的です。

佐藤健寿が感じた『佛光山佛陀記念館』

ここは、施設内や館内を歩いて回ってみると突っ込みどころというか、私たち日本人からすると「ええっ?」と足を止めてしまうポイントがたくさんありましたね。仏教寺院というと静謐・清貧めいたイメージを思い浮かべがちですが、『佛光山佛陀記念館』ではアートやテクノロジーをふんだんに用いていて、美術館や映画館のような豪華エンターテイメント施設になっている。入口のレストランエリアにはスターバックスまであったり、1日中過ごせますね(笑)。でもドローンで上空から撮影したとき、改めて山中に作られたこの施設と仏像の巨大さに異様さを感じました。

佛光山佛陀記念館
住所:高雄市大樹区統嶺里統嶺路1号
アクセス:新幹線左營駅から直通バスで約30分
時間:月曜日~金曜日 午前09: 00~午後19: 00 (本館閉館時間18:00)
土日及び祝日:午前09: 00~午後20: 00 (本館閉館時間19:00)
Webサイト:http://www.fgsbmc.org.tw/jp/index.html
その他:無料館内案内ツアー
申込先: http://goo.gl/forms/HZxfhx59GH

2.高雄のカッパドキア!?『月世界』

『月世界』は、左營駅からタクシーで約35分の田寮区にあります。田寮区には地理学上の名称で「悪地地形」と呼ばれる場所がたくさんあることで知られていますが、その中でも一番の絶景と言われているのがここ『月世界』。「悪地地形」とは、地底より隆起した結合度の低い泥の山が、風雨によって侵食され、峡谷状に形成された不毛の地という意味。500万年もの年月をかけて作られたこの奇妙な光景を、いつしか地元の人は『月世界』というようになったそう。近年多くの台湾人がこの珍しい風景を見に訪れるとのことで、2012年に月世界峡谷のふもとに地質解説センターがオープンし、一般に解放されました。

元々は台湾の地質学マニアが珍しい地形を見るために訪れることが多かったそうですが、今では若者がインスタグラム用に撮影するための人気スポット。古代ヨーロッパの遺跡のような、またその変わった風景を舞台に、台湾や香港の映画撮影がこの場所で行われたこともあるそうです。

『月世界』には、遊歩道が用意されていて、全体を見て回ることができます。遊歩道はきれいに整備されており全長2キロほどで、歩くと1時間半近くはかかります。丘のような傾斜が続くので、必ず運動靴を履いて行くのがオススメ。そして、高雄の山間部は天気が急に変わるので、晴れていても雨具の準備は忘れずにどうぞ。

夜になると、『月世界』の泥山は原色のライトアップで照らされます。昼間に見るくすんだ灰色とは、また違う表情を見せてくれます。施設の真ん中にある、小さな貯水池は1周500メートルほどで、地元のカップルや夫婦が散歩をするデートスポットとしても知られています。

佐藤健寿が感じた『月世界』

台湾はこれまで何度も訪れていますが、自然の景色を撮る機会はほとんどありませんでした。だから、最初に隆起した泥岩山を見た時、単純に凄いというか、台湾にもこんな場所があるんだなと思いましたね。あとは、景色もすごく印象に残っているんだけど、僕たちを案内してくれた管理人のおじさんが強烈でしたね(笑)。過剰かつ情熱的な説明で、『月世界』のすべてを紹介してくれた。おじさんの存在が強烈すぎて、この絶景が完全にかすんでしまうくらい。今まで世界中色々な場所で、たくさんの人にガイドをしてもらったけど、月世界のおじさんは間違いなく5本の指に入るインパクトでしたね。よくわからないけど、帰りがけには凍ったバナナとか色々もらいました。

月世界
住所:高雄市田寮区崇德里月球路36号
アクセス:新幹線左營駅からタクシーで約35分(公共の交通機関はバスのみ、本数も少ないのでタクシー利用がおすすめ。)
時間:地質解説センター10: 00~17: 00、ライトアップ17: 00~21: 00
その他:朱さんは『月世界』の地質解説センターで勤務されています。

3.戦争遺産『海軍鳳山無線電信所』

次に向かったのは、高雄の市街地から車で約20分ほど走った静かな住宅街である鳳山エリアにある『海軍鳳山無線電信所』。

この鳳山エリアは、かつて日本海軍の拠点として、様々な軍の施設があったエリア。その鳳山にある『海軍鳳山無線電信所』は、日本統治時代だった1917年に日本海軍の無線電信所として建設されたものとして知られています。

かつては、日本三大無線電信所のひとつと呼ばれた

設立当時は、千葉の船橋、長崎の針尾と並び、日本三大無線電信所のひとつと言われたほど最新鋭の電信機器が揃っていたそう。第二次世界大戦が終わった後に日本軍は去り、中華民国海軍の訓練班が使用、2005年には高雄眷村文化発展協会が管理するようになり、現在のように一般に公開されるようになりました。

時代とともに、日本軍、(台湾)国民軍、そして台湾政府の管轄と、管理者が3回変わりましたが、施設のスローガンは上記の写真にもあるように、同じ「永遠忠誠」。日本政府が管理していた頃は、施設には色がついていなかったそうで、日本軍が去ったあとに上記の写真のように赤く着色されたと言われます。

この施設一帯は、台湾の歴史を現在に残すものとして、2010年に国指定の古蹟に指定されました。

日本海軍が使用した、ありのままの機材が残る「送信機室」

『海軍鳳山無線電信所』の中央に位置し、この施設のメインとなる送信機室には、日本海軍が実際に使用していた通信機器がそのまま残っていて、当時のありのままの姿に触れることができます。

この送信機室内には、様々な電気器具はもちろん、当時の細かい指示書や当番表までもが残っています。そんな中を佐藤さんは、ゆっくりと、そして黙々と撮影を行います。この送信機室は、一見するとわかりにくいですが、建物の構造が十字架になっていて、上から眺めると、また不思議な光景です。

政治犯が収容された「禁閉室」「勒戒室」

第二次世界大戦の終結とともに日本政府が去り、この施設が台湾の国民党管轄になったとき、施設名称が『鳳山無線電信所』から『鳳山招待所』へ変わりました。「招待所」と聞くと、一見賑やかな施設のように感じますが、実態は海軍総部台湾工作隊が逮捕した政治思想犯の取り調べや、軍律を破った兵隊の懲罰所として使用していた場所とのこと。

そういうこともあってか、実はここ『海軍鳳山無線電信所』は、高雄の地元では有名な心霊スポット。中でも、「禁閉室」「勒戒室」は、密室なだけに、不気味な空気感が漂います。

この場所は、政治犯や思想犯の懲罰室として使用されていたことに加え、当時収容されていた軍人の中では、ドラッグや性病が蔓延していたそうで、彼らを隔離する目的で作られました。室内の壁に貼られたマットは、収容された中毒者や患者が自傷行為をしないように設置されたそう。いつから今の形になったかわかりませんが、その引き裂かれたマットの姿が、リアリティを増します。

その他、広い敷地内には防空壕や軍官宿舎など、様々な見所がある『海軍鳳山無線電信所』。取材日も、2時間近く周りましたが、それでもすべての施設を見て回ることはできませんでした。ゆっくり各施設を見学するには、半日ほどゆっくり時間を取り、訪れることをオススメします。

佐藤健寿が感じた『海軍鳳山無線電信所』

『海軍鳳山無線電信所』はいわゆる戦争遺産。戦争遺産というと、日本はどうしても歴史的な理由から戦争をポジティブには振り返れない側面がありますよね。だから日本の戦争遺産は、基本的には戦争の悲しみを後世に伝えなければいけないというスタンスがある。逆に欧米諸国では、自分たちの輝かしい歴史の一面として華やかに戦争遺産を公開している。台湾の場合はそのどちらでもなくて、すごくニュートラルに「戦争」を伝えている気がします。建物自体の説明はあるけれど、その背景にある歴史や当時の状況の説明は特になく、ありのままの姿で残っている。それがとても印象的な場所です。ある意味では負の歴史を持つ場所ですが、今日も僕たちが撮影をしている横で、周りにインスタ用の写真を撮るカップルがいたことも面白かったです。

日本海軍鳳山無線電信所
住所:高雄市鳯山区勝利路
アクセス:鳳山国中駅駅から徒歩10分
時間:土・日曜日 9:00-17:00

写真家・佐藤健寿さんの他に、Yogee New Waves 角舘健悟さん、モデル・武居詩織さんによる、3人独自の高雄旅が垣間見れる、スペシャルコンテンツを公開中!
高雄市観光局の特設サイトはこちらから

プロフィール
佐藤健寿
佐藤健寿 (さとう けんじ)

武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。 世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。 写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』『諸星大二郎 マッドメンの世界』(河出書房新社)など。 近刊は米デジタルグローブ社と共同制作した、日本初の人工衛星写真集『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、 『奇界紀行』(角川学芸出版)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号~美しき世界の不思議~』(講談社)など。 NHKラジオ第1「ラジオアドベンチャー奇界遺産」、テレビ朝日「タモリ倶楽部」、 TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。 トヨタ・エスティマの「Sense of Wonder」キャンペーン監修など幅広く活動。



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