この街には一体どんな魅力があるのでしょうか?二人がそれほど夢中になり、10年間、どのようにして心の中の信念を実現し、この大きな港湾工業都市で新しいライフスタイルを創り上げてきたのか。そして、起業する過程で、2人の目に映る高雄には、他の町とは違う魅力があるのでしょうか?
POSTED on 2020.05.24
UPDATED on 2020.05.27
美麗島駅から出ると、台湾南部の照りつける太陽と塩辛い風が迎えてくれます。目の前の街並みは、台湾の民主化と高雄経済の最盛期を物語る大港埔(新興区の旧名)です。中正路を歩いて5分ほど進むと、街角にヴィンテージ感漂う4階建ての白い建物が立っています。この建物には2つの入り口があり、一つはレトロ感があって、上に大きい金色の文字で「鶴宮大旅社」を書いてある白いドア、こちらから入ると「鶴宮寓 ho̍k house」(以下、鶴宮寓)です。もう一つは中正路に面しており、茶色い木製のドアに窓があって、そのガラスには「亀時間 goöod time」(以下、「亀時間」)の文字が輝いている。



龜時間の木製ドアを開ける前に、ドアの横にある古い時計を一瞥すると、針はいつも正確に合わず、間違った時刻を指しています。まるで部屋の中の時間が別世界のものであるかのように、暗示しているかのようです。ドアの向こうでは、光と空気の流れが緩やかになっていると感じられ、カウンターでコーヒーを淹れているNatoさんが恥ずかしそうに微笑みます。そして、オープンキッチンで忙しくて動き回っているのがTristaです。二人のやりとりには、調和のとれたリズムが漂っています。思わず「お二人はどれくらいお付き合いしているんですか?」と聞いてみたところ、Tristaが顎に手を当てて真剣に考え、「高校時代から知り合っていて、大学で付き合い始めました。もう長すぎて覚えていないくらですよ」と笑顔で答えてくれました。


高雄に戻ったきっかけについて話すと、大学卒業後、建築に興味を持っていたNatoは、建築家の毛森江氏が手掛ける家具ブランド「森/CASA」での仕事を得ましたが、数年後に家庭の事情で高雄に戻りました。同じ頃、大学卒業以来会計事務所に勤めていたTristaも、上海での2年間の駐在生活を終え、高雄に戻り留学試験の準備をしていました。「最初は宿泊業をするつもりは全くなかったのに、偶然この道に入り込んでから、止まることができませんでした。」当時、Tristaの実家もちょうどリノべーションが必要な状態だったので、旅行好きの二人はその古い家をホステルに改装し、偶然にも10年前の台湾でバックパッカー向けホステルの先駆者の一人となったのです。
「ホステルに到着してからの受付から、空間や家具の配置など、すべての細部にその運営者のセンスが感じられます。誰かのビジョンに住めるなんて、とてもロマンチックなことだと思いませんか?」起業の初心について語るとき、Tristaの目は輝きます。Natoも共感し、「どこかへ旅行する際にはまず宿泊場所を探しますよね。ひとまず落ち着けば、他の体験ができると思います。ここはまるでシェルターのようであり、旅行者と街をつなぐ橋のようでもあります。」と話しました。
この10年間で、二人は高雄の複雑な人口構成や歴史、文化について多くを学び、大港埔が高雄にとってどれほど豊かな歴史を持つのか、そこに住む人々の生活に対する理解を深めました。「食文化にしろ歴史にしろ、大港埔にはまだまだ掘り起こすべきものがたくさんあります。」NatoとTristaは、高雄を訪れる旅行者にとって、自分たちのホステルとカフェが、最初の門戸となれることを確信しています。
「高雄の人々の思い出には、海が大きな存在だと思います。」とこの街の風景について話し始めると、Natoはすぐに幼少期の記憶を思い出しました。「両親は私たちを港に連れて行って、船が入港する様子や、コンテナが上下するのを見たりしていました。海から吹く風を観察することで季節の移り変わりがわかるんです。」そして、10年前に高雄に戻り起業した頃を思い返すと、「その時、衛武営、アジア新湾区、ライトレールなどが進行中でした。景気はまだ良くなっていなかったが、斬新な青写真が私たちを待っているように感じました。」Natoが子供の頃に見た、古く巨大な高雄港は、希望に満ちた方向へと進み始めています。

「7年前、地元の人々が『港内』と呼ぶ駁二芸術特区も開放されました。」この港町にさらに多くの前衛的で革新的な文化が流入し、人々は海とより身近に感じるようになりました。NatoとTristaは毎週、中山大学の防波堤に足を運び、リラックスする時間を作っています。時にはビールと鹹酥雞(台湾からあげ)を持ってピクニックに来る時もあります。 「この2年間、私たちは仕事のペースを調整し、休暇を取るようにしています。仕事は生活を見つけるためのものであって、生活を失うためのものではないと思うからです。」かつての工業港湾都市は、人々がゆったりと、生活を楽しむ場所へと少しずつ変わりつつあるようです。
しかし、この10年間に高雄で直面した課題について尋ねると、Tristaは少し眉をひそめながら、近年の高雄ホステルのコングロマリット化現象と厳しい規制が相まって、小規模な宿泊施設が生き残るのが難しくなっていると語りました。「Chez KiKiを終える際、私たちは高雄を離れ、別の場所で新たな挑戦をしようと決意したが、幸運にも、いま鶴宮寓があるこの建物の一階でNatoの中学校の同級生に偶然出会ったんです。」その同級生はちょうど建物の防水工事をしており、同級生を通して、NatoとTristaはそのオーナーがこの建物を整理して、賃貸に出す予定だと知りました。高雄を諦めると決めていた二人にとって、それはまるで希望の光が差し込んできたような瞬間でした。「ここは元々大旅社(古い旅館)だったので、旅館の営業許可を取得する際に有利かもしれない。もう一度高雄で挑戦してみようか!」と二人は決意し、この建物を借りることにしました。

2016年にこの建物を引き継いだ後、二人は時間をかけて、ゆっくり空間の改装を進めていきました。2階以上の部分は元の「鶴宮大旅社」の名前を残し、現在はB&B「鶴宮寓」として、1階はカフェ「龜時間」として運営しております、どちらでも二人が慎重に考え抜いた最適な形を表現しています。「高雄は自然と近いため、アウトドアでチルな環境が整っています。そうした環境でリフレッシュすることで、現実の課題に立ち向かう力が得られると思います。」山と海から得た力こそが、二人がここまで迷わずに突き進んできた理由かもしれません。
「高雄は大きな都市ですが、少し郊外に出ると山や海、畑があり、新鮮な農産物や海産物が手に入りやすいです。」近年、地元の食材にこだわりを持つようになったTristaは、誇らしげな笑みを浮かべました。以前、鶴宮寓で開催された「節気時旅」では、高雄を訪れる旅行者に、実際に当地の食材を体験してもらうことを目的としていました。そして、今では龜時間のメニューにも、台湾南部の豊かな熱帯果物がふんだんに使われています。「桃源宝山部落の紅茶や那瑪夏の梅酒、杉林区の若生姜を使った生姜ソーダは、どれも私たちの自慢です。」



旅人が安らぎを感じられる「鶴宮寓」を作り上げたNatoとTristaは、「龜時間」を近所の人々が気軽に立ち寄れる、温かな街角のカフェにしたいという思いから、店内には温もりを感じる木製の古家具が配置され、本棚にはテロワール、食、街歩きに関する本が並んでいます。食事も空間も温かさに満ちており、Tristaが台所から運んできたのは、地元の食材を丁寧に調理し、香ばしい料理でした。「ゆっくり時間をかける」ことの真髄が、このクリームソースで煮込んだ春野菜とキャベツロールのグラタンに詰まっているのです。二人が心を込めて料理を作り、満足そうな表情を浮かべる姿を見ると、まるでこの街での理想的な暮らしそのもののようです。




また、NatoとTristaが個人的におすすめしたい、高雄の精神や生活感を体現する場所をいくつか紹介してくれました。「高雄には、まだまだ意外な顔がたくさんあります!例えば、五福路にある老舗『尚品咖啡』は、近隣の住民だけでなく、多くの文化人の先輩方々が集まる場所です。」二人は次々と話し始めます。「そうだ、 レコードショップ『艾比路唱片行』と漫画喫茶『Booking』も忘れてはならないですよ!」高級オーディオと数千枚のレコードをコレクションしている「艾比路唱片行」の店主は、かつて台湾北部で金融業の管理職をしていましたが、高雄に戻りホステルを開業して、その後、 レコードショップ兼レストランに改装して営業しています。音楽好きなNatoとTristaは、いつもここで時間を忘れるほど楽しんでおり、Tristaは「オンラインストリーミングが主流の時代に、レコードショップが存在することは、とてもロマンチックなことです」と幸せそうに語ります。塩埕区にある「Booking」は、昨年改装され、明るく快適な空間になり、従来の漫画喫茶とはちょっと違います。そして、漫画喫茶でインスタントラーメンを食べながら漫画を読むという青春の思い出に応えるために、オーナーはフレンチシェフにメニューをデザインしてもらい、なんと300元以上の高級インスタントラーメンがあります。とても「クレイジー」な発想だなと思いました(笑)
実際、どの高雄人も、自分らしい生き方を貫き、自分が思い描く高雄を築き上げています。「高雄ってどんなところ?」と聞かれたら、これらの店を見ればわかるでしょう。各店舗、各オーナーにはそれぞれの鮮明な個性があり、Natoはこれら海のように自由奔放なオーナーたちについて、「高雄には文青(文芸青年)はいないですよ。マニアックしかいないです」と結論づけました。何年経っても、二人は高雄に対して新鮮さを感じ続け、よく鶴宮寓に滞在する旅人に、インターネットの情報やガイドブックを手放し、一階の龜時間に立ち寄って、地元の人々とおしゃべりすることをおすすめします。親切な高雄の人々は秘かな観光スポットを紹介するのが得意です。高雄はいつも驚きに満ちている活気のある街です。一度五感を研ぎ澄ませて体験してみないと、本当に勿体ないだと思います。


