ローカルが語る香港の「今」。雑貨店『MIDWAY』を営む夫婦の場合

2019年6月に激化した抗議デモから7か月、香港はいまもなお大きなうねりの中にいる。市民と警察の衝突が起こっていたデモの最前線はもちろん、日常生活においてもさまざまな変化があったに違いない。しかしその一方で、変わらない暮らしがあるのも事実だろう。

そんな香港でお店を営む人たちは、街の「今」をどう感じているのだろうか?

HereNowでは、2020年1月から香港のリアルな日常を追う企画「Updates Hong Kong 2020」をスタート。第一回目は、専門店が立ち並ぶ問屋街・深水埗(シャムスイポー)エリアにあるハイセンスな雑貨店『MIDWAY』を取材した。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

ものの裏側に隠されたストーリーを紡ぎたい。雑貨店『MIDWAY』とは

妻のRitaさんと夫のPanさん、ご夫婦二人で営む雑貨店『MIDWAY』は、九龍半島の北西部・深水埗(シャムスイポー)にある。電子用品やアパレルパーツなどの卸問屋が並び、つねにたくさんの人ともので賑わう、パワフルなエリアだ。

しかし一歩踏み込んでみると、若い店主のこだわりが光る、こぢんまりとしたギャラリーやカフェなども多い。日本人クリエイターの作品も数多く扱う『MIDWAY』は、地元の感度の高い人々が集まる人気店だが、開店のきっかけは趣味の延長で始めたブログだったという。

MIDWAY:5年前に、自分たちの好きなものや場所を紹介するブログを書きはじめました。もともと私たちは日本の文化が好きだったので、ブログでの活動のなかで日本人クリエイターの方々とご縁をいただくことも増えて。彼ら、彼女らのつくる魅力溢れるものを香港で紹介したいという思いが芽生え、2017年にショップをオープンしたんです。

『MIDWAY』はただの雑貨屋ではありません。大切にしているのは、一つひとつのものの裏にあるストーリー。商品の横には、必ずそれにまつわる物語を添えるようにしています。香港には日本の文化が大好きな人も多いのですが、私たちが扱っているようなものを香港で買える店はなかなかないので、お客さまにとても喜んでもらっています。

妻のRitaさんは、香港生まれ香港育ち。夫のPanさんは、中国の深圳(シンセン)で生まれて、9歳の頃に香港にやってきたという。それぞれグラフィックデザイナー、プログラマーとしてのキャリアを経て、『MIDWAY』の開店に至った。

MIDWAY:じつはいまも、実店舗での販売以外にも、ウェブサイトでものを紹介したり、カメラマンとして撮影をさせてもらったり、いろいろな仕事をしています。「ものや場所の裏にあるストーリーを伝える」ということを軸に、肩書きにこだわらず活動している感じですね。

例えば少し前には、香港で『若草』という本を出版しました。コンセプトは、日本の地方に残っている伝統的な文化を、新たな方法で継承している若者を紹介しようというもの。まずは、香港人にも人気が高く、新旧のバランスが独特な街・京都を取り上げ、一冊にまとめました。

この本では、京都にある10のお店を取り上げ、それぞれのストーリーに迫っています。例えばそのうちの一つ、私たちと同じように夫婦で営む、京都北山の『CIRCUS COFFEE』。築約100年の歴史ある町屋を改装してできたお店で、世界各地から集められた質の高いコーヒーを提供しています。一杯を通じて、歴史的建造物や、この土地に根づく人々の密なつながりを守っています。

『若草』には、「まだ知られていない人やもの」という意味が込められています。私たち二人が執筆と構成を担当し、撮影は以前からの友人である、カメラマンの濱田英明さんにお願いしました。

新旧のミックスという意味では、『MIDWAY』のある、ここ深水埗も面白いですね! そういう場所が好きなのかもしれません。

香港はどう変わったの? デモが活発化してから感じていること

『MIDWAY』が深水埗にオープンして2年半。その間に、今回の抗議デモが始まった。日本にいると、報道やSNSだけからしか情報が得られないが、街ではどんな変化が起こっているのだろう。「たしかにデモが激化して以来、街から人が減っているし、人々の購買意欲も下がっている」と前置きしながらも、二人はこんな話を聞かせてくれた。

MIDWAY:『MIDWAY』に関していうと、比較的デモの影響は少ないですね。深水埗駅前の繁華街からは離れていて、デモの拠点でもなければ、催涙弾の影響もない場所ですから。むしろ「気持ちが落ち着くから」という理由で、頻繁に足を運んでくれるようになったお客さまもいます。嬉しいことですね。

たしかに『MIDWAY』には、人を癒す空気がある。店内に一歩足を踏み入れれば、ゆったりとしたBGMとアロマの香りに包まれる。商品たちは、作り手から、そして売り手である二人からたくさんの愛情を注がれていることを感じさせる。そこには、デモの前も後も変わらぬ、柔らかい空気が漂っているようだ。

MIDWAY:また、デモが直接的なきっかけになったというわけではありませんが、あえて香港にいらして『MIDWAY』でトークショーをしてくださった方もいます。『Studio Journal knock』という日本のインディペンデントマガジンを主宰する、カメラマンの西山勲(いさお)さんです。当初は東南アジアに行く計画を立てていたそうなのですが、デモを機に香港へ行きたいという気持ちを強くしたのだとか。

決して多いわけではありませんが、こういった新しい出会いにつながる例もありました。

二人の住まいは店舗のほど近くだが、日常生活にもあまり影響は感じないという。ただ、もともと中国本土の生まれで、あまり香港に特別な思い入れがなかったという夫のPanさんは、デモをきっかけに、ある種の「希望」を感じるようになったという。

MIDWAY:これまではなんとなく、香港人はお金が一番大事で、大切にしている文化や信条がないのではというイメージを持っていました。でも、今回のデモで自由を求めて行動する若者たちは違った。店では香港の若手クリエイターの作品展示を行ったこともあったので、これからの香港文化の担い手として、若い人たちに期待する気持ちは強くなりました。

「こんなに面白い場所は他にない」。香港&深水埗の魅力を聞く

深水埗では、デモ前後の変化をそれほど感じていないという二人。あらためて、二人が考える香港の魅力を聞いてみた。

MIDWAY:なんといっても、こんな小さな土地に新旧が共存しているところ! 『MIDWAY』のある深水埗だって、古くからある布屋さんもあれば、新しくできたおしゃれなお店もある。旅行が好きで、いままでいろんな国に行きましたが、こんなふうに相反するものが上手く共存している面白い場所は他にありません。

深水埗には、「電子用品街」「ビーズ街」「ボタン街」「皮革街」「玩具街」など、それぞれのストリートに愛称があり、その名のとおり卸問屋がずらりと並んでいる。その店舗数とアイテム数は驚くほど多く、手に入らないものはないように思える。小売りも行っており、個人にも安価で提供してくれる。

そんな老舗と一緒に『MIDWAY』のような新しいお店が並んでいるのが、深水埗エリアの魅力だ。新旧の店は分かれることなく、昔ながらの卸問屋に挟まれておしゃれなカフェがあったりする。

MIDWAY:私たちのおすすめのお店は、「皮革街」の愛称で親しまれる大南街(タイナンストリート)にある、イベントスペース兼カフェ『openground』と、ギャラリー『Parallel Space』。そして『MIDWAY』のお隣にある雑貨店『foreforehead』。

どれも友人たちが営むお店なんですが、みんな、私たちと同じように、さまざまなキャリアを経てお店を始めた人たちです。独自のビジョンと情熱をもって経営しているので、エキサイティングな場所だと思います。こうして店をやっている者同士、クリエイター同士のつながりが強いところも、深水埗の魅力ですね。

PanさんとRitaさんが二人で考えた『MIDWAY』という名前には、「生きているこの時間はすべて死までの途中」という意味があるという。飛行機の窓をかたどったロゴには、「目の前の風景を大切に」というメッセージが込められている。

MIDWAY:じつは私たち二人とも、以前は香港がそれほど好きじゃなかったんです。ここはとても活気があるけれど、反面、やっぱりとてもせわしないから。仕事だけではなく家族との時間を大切にしたり、生活そのものを楽しんだりできる、北欧的なライフスタイルに憧れたりもします。

でもいま香港は、多くの人の力を必要としているとき。だからここでがんばりたい。こういった殺伐としたときだからこそ、香港の人たちに、穏やかな魅力が溢れるものを紹介していきたいと思っています。

『MIDWAY』
住所: 香港深水埗基隆街132號地下B舖
営業時間: 13:00〜19:00
定休日: 月曜、火曜
最寄駅: 深水埗駅
URL:http://shop.midway.voyage/
『openground』
住所: 香港深水埗大南街198號
営業時間: 12:00〜20:00
定休日: 月曜
電話番号: 852- 3974-5098
最寄駅: 深水埗駅
URL:https://www.facebook.com/opengroundhk/
『Parallel Space』
住所: 香港深水埗大南街198號
営業時間・定休日: エキシビションにより異なる
最寄駅: 深水埗駅
Instagram:https://www.instagram.com/parallel_space_hk/
『foreforehead』
住所: 香港深水埗基隆街132號B舖閣樓
営業時間: 13:00〜19:00
定休日: 月曜
電話番号: 852-9172-7911
URL:https://www.foreforehead.com/
香港での抗議・デモ活動について
報道などで判明している香港における主な抗議活動などの場所と時刻は、在香港日本国総領事館のウェブサイトに掲載されます。適切に情報収拾を行い、付近には絶対に近づかないようにしましょう。

また、最新の抗議活動や施設の運営状況がわかる情報は、以下の「香港ツーリスト・ライブマップ」サイト(英語)にも反映されますので、旅行時にはこちらも参照ください。
https://www.hktouristmap.com/


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