麺で楽しむバンコクの旅。ヌードルライターによるバンコク麺紀行

バンコクに旅行へ行ったら、何をするべき!? 寺院を回ったり、おしゃれなカフェやバーを巡ったり、市場で買い物をしたりと選択肢は様々。そんな中でも、スパイスの効いたタイ料理は、日本人にとっても楽しみにしている人も多いはず。今回は特別編として、HereNow FUKUOKAのキュレーターを務め、ヌードルライターとして活躍する、山田祐一郎さんによるタイ・バンコク紀行。モットーは“1日1麺”という山田さんに、バンコクの麺料理はどう映ったのでしょうか?

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

タイ旅行の目的は、まさしく“麺”

タイに来た目的は麺。これほど極端な動機によってタイを訪れる人はなかなか珍しいんじゃないかと思う。私は、ヌードルライターとして活動をする身として、このタイにはいつの日か、麺を食べに来たいと切望していた。

そんな中での今回のバンコク麺旅行。結論から言えば、タイの麺文化は深遠であり、たかが数日の滞在ではその一部分ですら掴めていないのだろうと感じた。ただ、そのドアはノックできたように思う。あとは先に進むだけ。ということで、まずはタイ初心者かつ、麺のプロと自負するぼくが心から感動した厳選4店をご案内したい。

1.Pak Bakery

バンコクでの最初の朝は、『Pak Bakery(パックベーカリー)』から始めるのだと決めていた。ここは朝7時から営業しているベーカリーショップ。ショーケースをチェックすると、オリジナルのパンのほか、スイーツ類も並べてあった。英国調のちょっと上品な雰囲気で、とても清潔感もある。奥のほうを見ると、ヨーロッパ、もしくはアメリカから旅行で来ていると思しき、欧米人のグループが食事を楽しんでいた。

「おいおい、タイにヌードル食べに来たんじゃないのかよ?」。そんな声が聞こえてきそうだが、ご安心を。実はこの店は30年の歴史があり、ベーカリーとスイーツに加え、ちゃんとタイ料理も取り揃えている。その名物ヌードルを目当てに訪れたのだ。

ここでのマスト麺はパッタイ。パッタイはタイの麺料理の中でもとりわけポピュラーな存在で、日本でいうところの焼きそばだ。

『Pak Bakery』のパッタイは、まず具材の盛りがしっかりしていて、その火の通し方が絶妙だった。エビは汁気を蓄え、噛みしめるとプリッと弾ける。卵は十分に火が通っていて、フワッとした食感で、甘味を伝える。炒めたものとは別に生で添えられたモヤシ、そしてピーナッツも食べる際にリズムを付与する重要な脇役だった。

こちらでは王道的なセンレック(米粉で作った、平たい麺)を使っているようで、平べったい形状の麺が良い。光沢をまとったそれは、汁をたっぷり吸っているからなのか、ジューシー感までもが加わり、咀嚼するたびに痛快な美味しさ。炒める際に具材と調味料の旨味がしっかり吸わせてあるわけだが、炒める料理なのに、炒めすぎてないような印象を覚えた。見てないのに、厨房で軽妙に鍋を振るシェフの姿が想像できる一杯だ。

味付けは甘みが当然ながらフックになっているが、この店の雰囲気そのままに、とてもその加減は上品。クルワンプルーン(卓上調味料)の砂糖、ナンプラー、酢、粉唐辛子で後から調整すれば良いのだから、ベースはこれくらいがちょうど良いように思えた。

そして、ライム。これはぜひ後半でも良いので搾ってみたほうがいい。酸味がキリッと立つことで、バランスを損なうことなく、味が引き締まるのだ。

Pak Bakery
住所:96/8-9 Sukhumvit 23 (Prasarnmit) Road. Bangkok
営業時間:07:00~21:00
定休日:なし
電話番号:02-258-1234
最寄り駅:MRT Sukhumvit駅
Facebook:https://www.facebook.com/pakbakery1979/

2.バミー・コンセリー

『バミー・コンセリー(บะหมี่คนแซ่ลี)』に到着すると、赤字のベースに白抜きで屋号が記載されていた。そこまでは良い。だが、その下に黄色い文字で「うちの店は50年も自家製麺を作っていた。」と日本語で書いてあるのには驚いた。

中華麺であるバミー自体は、タイの麺の中でも大変ポピュラーなもので、提供している店は数え切れないほどある。そんな中、ここはバミー専門店として、半世紀以上、粛々と自家製麺を守り続けているのだ。

食べてみると、このバミーが流石のクオリティ。麺そのものが割と細麺ながらもプリッとした小気味良さがある。ほんのりとウェーブを感じるが、これは手もみに近い感覚で、ワシっと麺を掴み上げる時に自然発生したものだと思われる。肝心な味のほうはというと、小麦の存在感があり、それゆえ、咀嚼する楽しみもある。

上にトッピングしてもらったカリカリ焼豚、鴨のグリルが抜群にうまい。焼き加減においては表面にしっかり火が通り、一方で中はしっとり、肉汁をたんまりと蓄えている。豚なら豚の、鴨なら鴨の、そんな真っ直ぐに届く素材の味が際立っていた。

そしてワンタンも見逃せない。口に入れれば、「トゥルン」と、すべすべの食感が官能的だ。中の具も一切、ケチ臭さがなく、食べ応えがある。そしてタレの甘辛い味付けもイケる。それそのものでも十分美味しいが、麺と一緒に食べるのも最高。ぼくたち日本人なら誰しも連想できる焼肉オンザライスのような、この上ない幸せを、この麺料理はもたらしてくれる。

バミー・コンセリー
住所:57 Sukhumvit Road, Khwaeng Khlong Tan Nuea, Khet Watthana, Krung Thep Maha Nakhon 10110, Bangkok
営業時間:6:30~23:00
定休日:なし
電話番号:02-381-8180
最寄り駅:Thong Lo駅

3.Thip Samai

夜の営業開始は17時ジャスト。『Thip Samai(ティップ サマイ)』に到着したのは、一歩遅れて17時10分だったが、すでに20人くらいの行列ができていた。さすが、1966年創業の老舗パッタイ店。およそ半世紀にわたって、タイきってのパッタイの名店として現地住民にも親しまれている名店だ。

店頭では目の前でパッタイの調理がなされていた。麺を茹でる人、炒める人、具材を合わせる人、味付けする人というように、数人による完全分業制。そして、とめどなくでき上がっていく料理。喉元を過ぎていくビールのように、それらが店内へとぐいぐいと吸い込まれていく様子はダイナミズム以外の何物でもない。

以前、地元福岡で、人気ラーメン店の店主に美味しさの秘密を聞いた時、「繁盛していることです」という、一瞬、何を言っているのか分からない回答をされたことがある。後になって分かったのだが、その店主が言わんとしたのはこうだ。「繁盛することで、常にスープが良い状態で出せる。その好循環が生まれることこそ、美味しさの秘密」なのだ。

この『Thip Samai』においても、パッタイを作り続けることでリズムが生まれ、その調理の連続によって嫌でも職人としての経験値が積み上がっていき、スキルに磨きがかかっていくのだろう。

オーダーは定番の「パッタイ」、そして卵で包んだ「パッタイ・ホーカイ」にした。運ばれてきたパッタイを見て、最初に気になったのが麺の色。パッタイの麺にタレが十分に絡んでいるのか、ずいぶんと赤い。食べてみると、デフォルトの状態で結構甘いが、この甘さがクセになる。加えて、十分な脂っ気が、これなしでは生きていけないというくらい強烈に、脳に直接呼びかけてくる。「もっと食べないか?」と手招きするようで、実に挑発的である。

個人的に気に入ったのは、卵包みのほう。暴れ馬のようなこのパッタイを、卵によるマイルドさが手綱となり、完全に支配する。スタンダードのパッタイで印象的だったその甘さが、一人歩きすることなく、全体的にメリハリはちゃんとあるのに、バランスの良さがある。とんでもない一品だ。

Thip Samai
住所:313-315 Maha Chai Road, Khwaeng Samran Rat, Khet Phra Nakhon, Bangkok
営業時間:17:00~26:00
定休日:なし
電話番号:02-226-6666
最寄り駅:MRT Hua Lamphong駅
Webサイト:http://www.thipsamai.com/

4. IM CHAN

『IM CHAN(イムチャン)』は、朝っぱらから営業している上に、日本語メニューがあるなど、日本人にも利用しやすい店なのだと聞いていた。店は、道を挟んで両サイドにテーブルと椅子がオープンエアな感じで並べられていて、片側に厨房がある。この開放的なタイ流屋台スタイルは、何度見ても飽きない。

ここではピンク色のスープが斬新な「イェンタフォー」を推したい。最初はピンクの色に怯み、やはりやめようかとも思ったが、百聞は“一食”にしかず、である。このピンク色の正体は紅豆腐乳。まず、豆腐乳とは豆腐を発酵させて作られたもので、それに食紅によって色を付けるのだという。この紅豆腐乳をベースに、さらにお店ごとに唐辛子やケチャップ、スイートチリソースのようなものを加えて仕上げるそうだ。

ピンクの色合いだからてっきり結構甘いのかと想像していたら、思いの外、辛味があり、そして甘さもあって実にエキゾチック。味のフックとしては申し分なく、そしてこの個性派スープを受け止める1~2cmほどのクイッティアオ センヤイ(タイ米で作られる極太の麺)が良い仕事をしていた。その形状によってスープとの絡みは抜群なのだが、表面がツルツルとしていて、よく絡んでいるのにクドく感じさせない。例えば、これがバミー(中華麺)だと、きっと、そんなに美味しくないと思う。

具は魚肉のつみれ、かまぼこ的な練り物、タイの空芯菜、イカ(だと思う)などというように盛りだくさん。なんだろう、甘酸っぱくて、でもどぎつくないような、実はやさしい味わいは、どこか青春を感じさせるものだった。

IM CHAN
住所:Sukhumvit 37 Alley, Khwaeng Khlong Tan Nuea, Khet Watthana, Krung Thep Maha Nakhon 10110, Bangkok
営業時間:7:00~22:00
定休日:なし
電話番号:089-813-7425
最寄り駅:Phrom Phong駅
プロフィール
山田祐一郎
山田祐一郎

1978年生まれ。2012年8月、【KIJI(キジ)】を設立。以来、日本で唯一(※本人調べ)のヌードルライター(麺の物書き)として活動する。モットーは“1日1麺”。福岡を中心に全国各地の麺を食べ歩き、原稿を執筆する。2015年7月、福岡初のうどんカルチャーブック「うどんのはなし 福岡」を上梓。公式webサイト内で、日々の食べ歩きを綴るwebマガジン「その一杯が食べたくて。」を連載中。



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